NATO事務総長　5年以内にロシアが加盟国攻撃の恐れと警告

北大西洋条約機構（NATO）のマルク・ルッテ事務総長は11日、ベルリンでの演説で、ロシアが今後5年以内にNATO加盟国へ軍事力を行使する恐れがあると警告し、「我々はロシアの次の標的だ」と訴えた。第二次世界大戦期に祖父母や曾祖父母が味わったような規模の戦争に備える必要があると強調し、平時を前提としてきた欧州社会に発想の転換を迫っている。

市民に突きつけられた「祖父母の戦争」という現実

ルッテ氏は、ウクライナへの侵攻でロシアが「欧州に戦争を持ち込んだ」としたうえで、紛争がNATO域内に広がれば、かつての世界大戦に匹敵する規模の衝突となり得ると指摘した。NATOの防衛態勢は当面維持できるとしつつも、「時間は我々の味方ではない」と語り、同盟国の市民に対しても、長期の緊張と負担を覚悟するよう呼びかけた。

同氏はまた、ロシアが既に「我々の社会に対する秘密工作を激化させている」として、偽情報の拡散や重要インフラへの妨害だけでなく、商業倉庫やショッピングセンターへの攻撃、荷物に仕掛けられた爆発物、ポーランドの鉄道網への破壊行為の疑いなどを列挙した。ポーランドやルーマニア上空での無人機侵入や、エストニア付近での戦闘機飛行といった空域侵犯も相次いでおり、正面衝突前から市民生活が攪乱されるリスクを強調した。

こうした説明の背景には、「ウクライナの安全は我々自身の安全だ」との認識がある。前線が崩れれば、NATOの東側国境に直接ロシア軍が迫り、防衛線の強化や財政面での「痛みを伴う選択」が一気に現実味を増すとルッテ氏は訴える。平和の配当を享受してきた世代に、紛争の影が既に日常の足元まで伸びていることを自覚してほしいというメッセージでもある。

なぜ今「5年以内の攻撃リスク」を明言したのか

今回の演説は、ベルリンで開かれたミュンヘン安全保障会議関連イベントで行われた。ルッテ氏は、ロシアが経済を事実上「戦時体制」に切り替え、ミサイルや攻撃用ドローンの生産を加速させていると指摘し、「NATOの防衛は今は機能しているが、このままではロシアは5年以内に同盟国へ軍事力を行使できる態勢に達する」との見方を示した。脅威が潜在的段階から具体的な時間軸を伴うものへと変わったことを印象づけた形だ。

そのうえで同氏は、加盟32カ国に対し防衛費と軍需生産の急拡大を求めた。オランダ・ハーグでの首脳会議では、2035年までに国内総生産（GDP）の5%を防衛に投じる長期目標で合意したが、ルッテ氏は「漸進的な増額では間に合わない」と強調する。ドイツのヨハン・ヴァーデプール外相も、ウクライナ支援を欧州全体で拡大すべきだと述べ、同国が軍事・経済支援で主要な役割を担っていることを説明した。

一方で、防衛力強化は福祉や教育など他の公共支出とのトレードオフを伴う。Reutersやラジオ・フリー・ヨーロッパなどは、今回の発言を「欧州市民に現実のコストを直視させる試み」と評しているが、各国世論がどこまで「戦時の心構え」と財政負担を受け入れられるかは見通せない。ルッテ氏の警告が、危機感を共有する一歩となるのか、それとも社会の分断を深めるのかが、今後の大きな焦点になる。

参考・出典

• NATO's Rutte warns allies they are Russia's next target
• Keynote speech
• NATO chief warns Western allies: 'We are Russia's next target'
• US pushing Ukraine to withdraw from Donbas and create ‘free economic zone’, says Zelenskyy – as it happened
• Rutte: NATO must boost air defences fourfold to counter Russia threat