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配布資料をめくる手が止まった。経済産業省の官民協議会が示した「中間整理」には、次世代地熱の実用化へ踏み出す段取りが並ぶ。運転開始の目標は2030年代早期。コスト低減に効く技術支援の設計を進め、伸び続けるデータセンターの電力需要に、脱炭素の安定電源で応える構図だ。現行法の扱いも視野に、制度面の検討を継続する。
実用化の道筋が見え始めた
中間整理は、技術開発と制度整備の双方を同時に進める工程を描く。政府は2025年の会合以降、実証段階への移行を想定し、2030年代の早い時期の商用運転開始を狙う。将来像としては、2040年代にかけての導入拡大、2050年時点で約7.7GWの発電容量を目安とする案が示され、対象は100超の地域に広がる。行程の明確化は、資本や人材を呼び込むための合図になる。
背景には、電力の使い方の変化がある。生成AIの普及でデータセンターの電力消費は増え、昼夜を問わず稼働できる電源の重要度が上がっている。気象に左右されにくい地熱はベースロード電源として評価が高く、再エネの比率を高めつつ系統の安定を保つ要に位置づく。中間整理は、探査から掘削、設備運用までのボトルネックを洗い出し、段階的に解く考え方を採る。
官民の連携枠組みも固まってきた。2025年4月の初会合を受け、翌日の大臣会見では「クローズドループ」や「超臨界地熱」など次世代技術を日本の強みにつなげる方針が語られた。従来型で蓄積したタービンや運転の知見を土台に、世界市場も視野に入れる。計画の要諦は、技術成熟と制度整備を並走させ、事業化までの不確実性を一つずつ減らすことにある。
超臨界地熱とは
超臨界地熱は、火山地帯の地下深部にある高温高圧の流体を活用する方式だ。臨界点を超える374℃・22MPa以上の状態で存在する「超臨界熱水」を対象とし、深度3〜5km級の貯留層から蒸気を得て発電する。単位坑井あたりの出力拡大が見込め、既存の地熱より大規模な発電所像が描けるとされる。高温・高圧・高腐食という過酷な環境に耐える資材や計測の確立が成否を分ける。
工程感としては、まず2030年までに出力の想定や貯留層の性状を確かめ、資源量評価と安全性評価を磨く段だ。以降は、坑井設計や地表設備の最適化、耐熱材料やセメント、センサー類の開発を重ねながら、コストを押し下げる道筋を詰める。既存の地表調査や数値シミュレーションの知見を束ね、掘削リスクと回収可能な出力の幅を、事業者が判断できるレベルまで狭めていく。
過去の研究では、条件次第で1坑井あたり数万kW規模の発電や、発電コスト9〜12円/kWh程度の可能性が示されてきた。実際の事業では地質やアクセスが大きく効くため幅は残るが、燃料調達に為替や国際市況の影響を受けにくい点は魅力だ。政府は将来的にLNG並みの水準を視野に置き、量産と標準化で資本費・運転費の両面を下げる狙いを共有する。
規制と地域の要
技術の歯車を回すには、制度の歯車も噛み合う必要がある。温泉法や自然公園法など現行規制の下で、次世代地熱をどう位置づけるかは要の論点だ。官民協議会では、現行制度との整合や許認可の流れを点検し、有識者による議論の場を設ける方向性が共有されている。掘削時の環境影響や温泉資源との関係に関する科学的データの蓄積も、並行して求められる。
地域との共生も欠かせない。探査の初期段階から情報を開くこと、騒音や温泉湧出への影響をモニタリングで見える化すること、万一の補償ルールを明確にすることが、受容性を高める。従来型地熱で積み上げた合意形成の経験を活かしながら、坑井深度や設備配置が異なる次世代技術に合わせ、ガイドラインや手順書を更新していく作業が続く。
資金調達の視点では、初期の探査・掘削リスクの分担が焦点になる。段階評価に応じた官民のリスクシェアや、成果連動型の支援スキームが鍵だ。系統側では、長期の固定的な出力をどう活かすか、FIP（市場連動型のプレミアム支援）との整合も検討課題となる。制度と金融が噛み合えば、計画は事業へ、事業は地域の投資と雇用へとつながる。
地下へ向かう一本の坑井が、新しい電源の輪郭を静かに描きつつある。
