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欧州向けガスを運ぶ海底パイプライン「ノルド・ストリーム」破壊事件を巡り、イタリアで逮捕されていたウクライナ人の元軍将校の身柄が11月27日、ドイツ側に引き渡された。2022年の爆発で供給不安に陥ったヨーロッパでは、今も冬の暖房費の高止まりに事件の影が残る。戦時下のインフラ攻撃を、欧州の裁判所はどこまで犯罪として裁こうとしているのか――その問いが、今回の移送で改めて浮かび上がった。
高い暖房費の裏にある、遅れて進む「責任探し」
バルト海の海底を通るノルド・ストリーム1と2は、2022年9月にデンマーク近海で爆発し、複数の破孔から大量のガスが漏れ出した。ロシア産ガスへの依存を減らそうとしていた欧州にとって、幹線パイプラインの破壊は象徴的な打撃となり、その後の冬にかけて家庭と中小企業のエネルギーコストを押し上げた。今季の欧州ガス市場は落ち着きを取り戻しつつあるが、利用者の側から見れば「あの爆発の責任は誰が取るのか」という疑問はなお解消されていない。
そうした中で、ドイツ連邦検察が「作戦の調整役」とみなす49歳のウクライナ人元軍将校が、イタリアから移送された。各紙の報道によれば、この人物は2025年8月、家族と休暇で滞在していたイタリア北部リミニ近郊のキャンプ場で、ドイツの欧州逮捕状に基づき拘束されたとされる。ドイツ側は、彼が偽造身分証でヨットを借り出し、ドイツ北東部ロストック港からバルト海へ出航した一団を指揮していたと主張している。爆発から3年余を経て、ようやく主要容疑者の一人がドイツの法廷に立つ可能性が見えてきた格好だが、日々の請求書と向き合う市民からすると、その歩みはあまりに遅く映る。
イタリアとポーランド、割れた司法判断が映すもの
今回の移送に至るまでの道のりは平坦ではなかった。イタリアの控訴裁判所は一度、ドイツへの引き渡しを認めたが、10月には最高裁がこれを差し戻し、手続きのやり直しを命じている。その後、11月に最高裁が最終的に移送を容認し、27日の引き渡しにつながった。アルジャジーラなどによれば、容疑者側は当時ウクライナ軍の士官として自国におり、「軍務として行った行為には国際法上の機能的免責が及ぶ」と主張しているという。軍の任務か、個人の犯罪かという線引きが、イタリアの法廷でも激しく争われた。
一方で、ポーランドの裁判所は別のウクライナ人容疑者について、ドイツへの身柄引き渡しを認めなかった。AP通信やワシントン・ポストなどの報道によれば、同国の裁判官はパイプライン攻撃を「侵略に対する正当な戦争行為」の一部と位置づけ、個人に刑事責任を問うべきではないとの判断を示したという。同じ欧州連合(EU)域内でも、インフラ攻撃をテロや破壊活動として処罰すべきか、それとも戦時国際法の枠組みで扱うべきかで、司法の見解が割れている。ウクライナ支援を続ける政治判断と、法廷での冷静な適用基準との間の距離が、徐々に露わになりつつある。
未解決の全体像と、エネルギー安全保障への長い影
ドイツ検察は、今回移送された元将校のほかにも複数人が関与したとみているが、その多くは依然として行方が分かっていない。スウェーデンとデンマークは2024年初めに各自の捜査を終了し、現時点で包括的な刑事捜査を続けているのはドイツだけだと報じられている。仮にドイツで有罪判決が出たとしても、作戦の命令系統や国家関与の有無まで解明できるかは不透明であり、「誰がパイプラインを爆破したのか」という問いの核心はなお宙吊りのままだ。
ノルド・ストリームは、爆発以前からロシアの対欧州ガス供給停止やドイツによるノルド・ストリーム2の認可中断で、すでに機能を失いつつあった。それでも、海底インフラが実際に破壊された事実は、欧州のエネルギー安全保障に長い影を落としている。今後は液化天然ガス(LNG)受け入れ基地や送電網、さらには再生エネルギー設備までもが、物理攻撃やサイバー攻撃の標的となり得るからだ。戦時下のインフラ破壊をどこまで刑事司法で抑止できるのか、そしてエネルギーをどこまで分散・脱ロシア化するのかという二重の選択が、欧州の政策決定者と市民の前に静かに突きつけられている。
