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米国防総省のペット・ヘグセス長官が、ベネズエラ発とされる麻薬運搬船への9月の空爆をどう見ていたのかを巡り、説明の食い違いが広がっている。12月2日、長官は最初の攻撃映像だけを確認したと述べ、生存者や続く2度目の攻撃は把握していなかったと主張した。一方で、ワシントン・ポスト紙が報じた「生存者への追撃」疑惑は、違法な殺害ではないかとの議論を呼んでいる。
生存者への2度目の攻撃が突きつけるもの
ロイター通信などによれば、問題の作戦は9月2日、カリブ海で行われた。米軍はベネズエラから麻薬を運んでいるとみなした小型船を爆撃し、船体は炎上・破壊された。ワシントン・ポスト紙は、その後残骸にしがみつく2人の生存者が確認され、現場指揮官が再度の攻撃を命じて死亡したと伝えている。
元軍法務官や国際人権団体の専門家は、戦闘能力を失った生存者を意図的に殺せば、国際人道法が禁じる降伏者の殺害に当たり得ると指摘する。麻薬密輸の疑いがあっても、海上で命綱を失った人々をどう扱うかは、軍事作戦と法の支配の境界を問う。
これに対しヘグセス長官は、最初の爆撃映像を見た際には炎と煙で何も識別できず、「戦場の霧」の中での判断だったと強調した。だが、生存者の存在や2度目の攻撃を誰がいつ把握し、どこまで確認しようとしたのかは依然として不透明だ。遠い海上で行われる対麻薬作戦が、どの命を守りどの命を切り捨てるのかが、静かに問われている。
「麻薬との戦争」が軍事作戦に変わるとき
今回の船舶攻撃は、トランプ政権が進める対麻薬キャンペーンの一環でもある。政権は麻薬密輸組織をテロリストと同列の脅威と位置づけ、カリブ海や東太平洋で疑わしい船舶を軍が先制的に破壊する方針を打ち出した。報道によれば、同様の攻撃はすでに20回以上行われ、死亡者は80人を超えるとされる。
従来、麻薬摘発の主役は沿岸警備隊や司法当局だったが、いまや軍が「治安維持」の役割を担い始めている。ホワイトハウスや国防総省は、2度目の攻撃命令は現場を統括する海軍大将が権限の範囲で行ったもので、長官はその決断を全面的に支持していると説明する。しかし、政治が作戦全体の枠組みを決め、軍が個々の引き金を引く構図は、責任の線引きをさらに曖昧にする。
テロとの戦いを名目とした無人機攻撃でも、「テロリスト」かどうかの判断を一部政府の秘密リストに委ねた結果、民間人が巻き込まれた例が相次いだ。今回の対麻薬作戦も、似たロジックで武力行使の範囲を広げている。標的にされるのは南米やカリブ海の船舶で、自国の領土から遠く離れた場所で米軍の判断にさらされることになる。
見えない映像と議会調査 残された問い
ヘグセス長官の説明は時間とともに変化している。攻撃直後の9月3日、米FOXニュースの番組では「作戦を生で見ていた」と語っていたが、12月の会見では「最初の一撃だけを確認し、すぐ別の会合に移った」と話した。議会からは、編集されていない監視映像の提出や、関係者の証言を求める声が上がっている。
元軍法務官や国際法学者は、生存者への攻撃が事実なら戦争犯罪に当たり得ると警告しつつ、国内の軍事司法は政権の意向に左右されやすく、米国は国際刑事裁判所にも加盟していないと懸念を示す。外部からの強制的な捜査が期待しにくい中で、議会による公開の検証や記録の保存が、数少ない歯止めとなる。
遠い海上で行われる対麻薬作戦は、国内の治安対策と国際紛争のあいだにまたがる灰色の領域に踏み込みつつある。誰がどこまで致死的な力の使用を許されるのか、その結果生じた責任を誰が負うのかという問いは、今回の一件でいっそう鋭く突きつけられた。軍事的圧力を強める前に、ルールと説明責任の枠組みを練り直す必要がある。
