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砲煙の向こうで街の輪郭がぼやける。ドネツク州ポクロウシクを巡る攻防は2025年11月3日もやまず、ロシア側は前進を主張し、ウクライナ側は包囲を否定した。北方ドブロピリャ周辺への兵力集結も伝えられ、前線は刻々と色を変える。要衝の行方は、東部全体の均衡を左右しかねない局面に差し掛かっている。
現地の攻防と両軍の主張
ロシア側は市内への浸透と包囲を示唆し、駅周辺などでウクライナ部隊を撃破したと強調している。一方で、現時点で確認されている範囲では独立検証は難しく、双方の発表の隔たりが戦況の読みづらさを増幅させている。市街の一角では建物の影が砕け、交差点には焼けた装甲の残骸が転がる光景が浮かぶ。
ウクライナ軍のシルスキー総司令官は2025年11月1日、市内で軍・保安局・情報総局が合同の掃討作戦を実施中だと述べ、「市は包囲も封鎖もされておらず、補給路は確保している」と強調した。圧力は強まるが、無人機や突撃部隊を重ねて対処しているとの説明が続き、戦線の綻びを許さない構えがにじむ。
ゼレンスキー大統領も2025年11月2日に「成果が上がっている」と述べ、最前線の防衛継続を示した。一部報道によれば、ウクライナ側はドブロピリャ方向での圧力を強め、ロシア部隊の注意を分散させる狙いもあるとされる。市街外縁での小規模な前後動が続き、地図上の線は日単位で揺れていると映る。
地図の意味—ポクロウシクが揺れる理由
ポクロウシクは、東部の鉄路と道路が交わる結節点である。北東のクラマトルスクやスラビャンスクと補給線でつながり、戦場の物流と部隊の回転に直結する。市域に迫る砲声は単なる前線のうねりではなく、後方の都市と産業、そして周辺住民の生活動線にも波紋を広げる性格を帯びる。
ロシア側が市を確保すれば、ドネツク州のウクライナ支配地域に残る主要都市群への足掛かりが強まるとみられる。2024年初めのアウジーウカ陥落以来で最重要の領土的戦果になり得るという見立てもあるが、機動と補給が噛み合わなければ持続的な突破には至らない。攻勢の実像は、数日規模の補給線管理に左右される。
戦況分析グループの見立てでは、ロシア軍が南部で優位を得た一方、市の大部分ではなお激しい抵抗が続くという。現時点で確認されている範囲では、市街全域の制圧には程遠く、建物ごとの攻防が積み重なる。焦げた停留所、遮蔽物に変わった塹壕、夜半の砲声――断片が示すのは拮抗の長さである。
市民と補給線—圧力下の防衛
シルスキー総司令官が言及した補給路の維持は、弾薬と交代要員の循環を意味する。情報総局部隊がヘリで市内に展開し、特殊作戦を支える動きも報じられた。前線では無人機の斥候と火力の連携が常態化し、交戦は短い間合いで繰り返される。道端の防壁が増えるほど、街の静けさは遠のいていく。
広域では防空の底上げも進む。ゼレンスキー大統領は2025年11月2日、ドイツから米国製地対空ミサイル「パトリオット」の追加供与が実現したと明らかにした。前線の趨勢を直ちに決める装備ではないが、後方の電力や鉄路を守る傘は厚みを増す。一方、10月のロシア側のミサイル攻撃が増加したとの報もあり、空の脅威は重くのしかかる。
避難の車列が延びる地域もあれば、地下室に毛布を運ぶだけの家もある。医療搬送の往復が続き、夜明け前のサイレンが眠りを浅くする。戦況が読みにくいまま日々が過ぎ、地図には小さな矢印が増える。次に動くのは補給線か、士気か、それとも天候か。街路に積もる灰だけが、時間の長さを物語っている。
