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政府高官がずらりと並ぶ会議室で、プーチン大統領が静かに口を開いた。2025年11月21日、テレビ中継された会合で、米国からウクライナ和平案を受け取ったと明かしたのだ。28項目から成るとされるその案は、ウクライナとの戦争を終わらせる「最終合意の土台になり得る」と言いながらも、ロシア政府内での本格協議はまだだと付け加えた。前線ではロシア軍の攻勢が続き、和平と軍事圧力が同時に進むいびつな構図が鮮明になっている。その言葉は、長引く戦争の行方を占う新たな合図となった。
ロシアが受け取った「基盤たり得る」案
プーチン大統領は、この和平案について「最終的な和平合意の基盤となり得る」と評価しつつ、文案づくりの段階でロシアには相談がなかったと不満もにじませた。米トランプ政権との間では、8月にアラスカで行われた首脳会談前後から同様の構想を議論してきたと説明し、今回の案はその「改訂版」という位置づけだと示唆した。一方で、正式な政府内協議は始まっていないと強調し、国としての立場を決めるには詳細な検討が必要だと慎重な姿勢も見せた。2022年の全面侵攻以降、ロシアはたびたび「対話に前向きだ」と発信してきたが、そのたびに同時進行する軍事行動が信頼を損ねてきた経緯がある。今回の場面でも、前向きな表現と疑念の入り混じった言い回しが同居していた。
今回の発言でも、ロシア側は政治的・外交的な解決に「準備がある」と繰り返した。しかしロシア外務省や政府高官はこれまでも、ウクライナの中立化や北大西洋条約機構に加盟しないことなど、従来の要求を譲れない条件として掲げている。ロシア専門家の間では、こうした条件が事実上の降伏を迫るものだとの指摘が多く、米案がそれにどこまで沿っているかが今回の焦点になっている。プーチン氏が「基盤」と呼んだ言葉の中に、どの程度の譲歩とどの程度の既得権の維持を織り込んでいるのかは、まだ外からは見えにくい。条件闘争の色合いが濃い「和平」の呼びかけは、聞き手によって全く別の意味を帯びて受け取られている。
米国の28項目案とは
米メディアが入手した草案によれば、この和平案は28の項目から構成され、ウクライナに対し東部ドンバスの一部などロシアが占領した地域を事実上譲り渡すことを求めている。また、ウクライナ軍の規模を半分以下に削減し、将来もNATOに加盟しないと宣言することが条件とされ、ロシアが以前から主張してきた「安全保障上の要求」が色濃く反映されている。その一方で、凍結中のロシア資産およそ1000億ドルをウクライナ再建に充てることなど、ロシア側にも一定の負担を求める条項が含まれていると報じられている。表向きは双方に譲歩を迫る枠組みだが、どちらにより重い負担を強いる内容なのかをめぐり、各国で評価が大きく割れている。制度の形をとりながら、戦場で積み上がった力関係を紙の上に写し取ろうとする内容だといえる。
トランプ大統領はこの計画を強く後押しし、11月27日までにウクライナが受け入れるべきだと、事実上の期限まで示している。ウクライナのゼレンスキー大統領は21日の演説で、国家としての尊厳と、最大の支援国である米国との関係維持との間で「極めて難しい選択」を迫られていると語り、案の受け止めに苦悩する姿をにじませた。一方、欧州各国の外相らは、計画づくりの過程で十分に説明を受けていないと不満を表明し、「ウクライナ抜き」に和平を進めようとする動きへの警戒を隠していない。米国務長官は、現時点では「あくまで案のリスト」であり修正の余地があると説明しているが、草案が漏れ伝わるたび、各地で反発と不安が広がっている。交渉のフォーマットをどう設計するかという、いわば「和平の前段階」をめぐる攻防もすでに始まっている。
進む戦闘と止まらない圧力
プーチン大統領は同じ発言の中で、ロシア軍がウクライナ東部で前進を続け、最近も重要拠点クピャンスクを制圧したと強調した。そしてウクライナが米案を拒めば、他の都市や前線でも同様の「解放」が続くだろうと警告し、軍事的圧力を交渉の背景に据える姿勢を隠さなかった。2022年春の初期停戦協議の頃と同じく、交渉の呼びかけと軍事行動が同時進行する構図は、相手側の信頼を難しくする。ウクライナ大統領府の顧問は、ロシアが提示しているのは「外交的解決ではなく、無条件降伏だ」と批判し、現在の戦闘が止まっても、同様の圧力が将来も繰り返されかねないとの懸念を示す。戦況の推移そのものが、交渉で許される線引きを一日ごとに変えてしまうからだ。
欧州連合の要人は、今回の案がそのまま受け入れられれば、武力による国境変更を事実上認める前例になり、欧州の安全保障秩序に長く影を落としかねないと指摘する。一方、長期化する戦争で疲弊したウクライナ国内では、停戦や妥協を受け入れてでも戦闘を止めたいという世論も、徐々に増えてきたとの調査結果がある。それでも、自国が占領された地域を手放すのかどうかという問いは、多くの市民にとって簡単に答えを出せるものではない。砲声が続く前線の向こうで、緑色の会議室に並ぶ地図だけが静かに動き、そこにどんな線が引かれるのかを世界が固唾をのんで見守っている。地図の上の線と人々の日常のあいだに横たわる距離の大きさが、あらためて浮かび上がっている。
