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秋の国会、議場にざわめきが残る夜だった。自民党の高市早苗総裁は2025年10月21日、衆参両院の首相指名選挙で第104代首相に選出され、自民と日本維新の会による新体制を船出させた。女性として初の首相である。初閣議では物価高対策を急ぐ方針を示し、経済と安全保障を両輪に据える姿勢を明確にしたと映る。
高市政権が示す新たな多様性
衆院本会議場での開票が終わると、与党席だけでなく傍聴席からも小さなどよめきが広がった。高市氏は女性として初めて首相に就いた。政権の骨格には側近の木原稔氏を官房長官に据え、政策決定の中枢に信頼できる回路を通した格好だ。政治の意思決定における多様性の拡がりを象徴する場面が刻まれたといえる。
新内閣の顔触れでは、片山さつき氏を女性として初の財務相に起用した点が目を引く。物価高と賃上げの綱引きが続くなか、財政と税の舵取りに女性の初登用という選択だ。経済安保担当には小野田紀美氏が入り、新設の外国人政策担当相も兼務する。労働や社会保障、入国管理にまたがる政策の連動性をどう担保するかが試される構図が浮かぶ。
一方で、連立の枠組みは与党再編の含意を帯びる。公明党の離脱で国土交通相には自民の金子恭之氏を起用した。維新との協力を深め、遠藤敬氏を首相補佐官に迎える布陣も敷いた。政権基盤の設計は、法案形成での機動力と引き換えに合意形成の難度を上げる恐れもある。支持層の受け止めが今後の耐久力を左右しそうだ。
経済と安保、初手ににじむ優先順位
高市氏は2025年10月21日夜の就任会見で、物価高への対応を最優先に据えると強調した。ガソリン税の暫定税率を廃する法案の成立に意欲を示し、いわゆる「年収の壁」の引き上げにも踏み込む考えを述べた。所得と社会保険の線引きが家計と企業行動を縛ってきた現実をどう解くか。家計の可処分所得を押し上げられるかが鍵になる。
初閣議では経済対策の策定を直ちに指示した。全閣僚への指示書には「責任ある積極財政」の名のもと、戦略的な財政出動を行うと記した。景気の下支えと成長投資の両立を唱える一方、財源の裏付けと中長期の債務持続性にどう道筋を描くのかが問われる。市場の信認と生活の実感を両立させる配分が必要になるとみられる。
安全保障では、防衛力のさらなる強化に向け、国家安全保障戦略など安保3文書の改定作業に着手するよう関係省庁に指示した。技術・産業・同盟の三層での抑止力と、周辺環境の変化をどう織り込むかが焦点だ。早期の衆院解散については「経済対策最優先」として否定的な姿勢を示し、当面は政策遂行に軸足を置く考えを明確にした。
人事ににじむ政権運営の作法
今回の組閣では10人が初入閣し、女性閣僚は2人にとどまった。総裁選の競争相手からは小泉進次郎氏を防衛相、林芳正氏を総務相、茂木敏充氏を外相に配した。対立後の登用で挙党態勢を演出し、与党内の求心力を確保する狙いが見てとれる。経産相には赤沢亮正氏が続投し、産業・通商政策の一貫性を担保する布陣を維持した格好だ。
治安・入管分野でも輪郭が描かれた。法相には不法滞在対策の強化と出入国の管理徹底を求め、外国人政策担当相の新設で受け皿を整えた。人手不足が慢性化する中で、就労と教育、地域共生の制度をどう整えるか。現場に近い自治体や企業との対話の質が政策実装の成否を分ける。理念先行ではなく、制度運用の細部が問われる局面である。
首相指名のプロセスでは、衆院で無所属6人が高市氏に投票し1回目で過半数に達したとされる一方、参院では決選投票に持ち込まれた。最終的に立憲民主党の野田佳彦代表を退けて選出された経緯は、数の作り方の難しさと同時に、野党第一党の存在感も浮かび上がらせた。国会運営は一手ごとに綱引きとなる可能性が高い。
