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羽田の空に秋の薄雲が流れる。2025年10月25日、高市早苗首相がマレーシアで開かれるASEAN関連首脳会議に臨むため、政府専用機で出発する見通しだ。就任後初の外遊となり、シーレーンの要衝を抱く東南アジアとどう向き合うかが問われる旅になる。「自由で開かれたインド太平洋」を軸に、経済と安全保障の両輪で協力を深める構図が浮かぶ。
初の外遊はマレーシアへ――海の道と成長の交差点へ
滑走路へ向かう機体の向こうで、整備士が静かに手を上げる。首相は26日に議長国マレーシアのアンワル首相と会談する方向で最終調整を進める。マラッカ海峡を擁する同国は、エネルギーや物資の海上輸送で日本経済の「生命線」とも言える位置にある。海の安全と交易の円滑化をどう確保するかは、実務と理念の両面で試金石になると映る。
一方で、東南アジアの成長を取り込み、サプライチェーンを強靭化する視点も欠かせない。日本はインフラ整備や人材育成で積み上げた関係を土台に、デジタルや半導体、スタートアップ支援へと協力の幅を広げたい考えだ。現地企業や日系企業の声をどう政策に結びつけるか、現場感覚が試される局面が続くとみられる。
26日午後には日ASEAN首脳会議が予定され、法の支配を基盤とする自由で開かれた地域秩序の重要性を共有する共同声明の採択が見込まれる。フィリピンのマルコス大統領との会談も調整が進む。海洋安全保障や経済連携で具体的な合意をどこまで織り込めるかが、今回の成果を左右しそうだ。
OSAで広がる安全保障協力――装備と人材の実務連携
政府は、同志国の安保能力を後押しする「政府安全保障能力強化支援（OSA）」を軸に、装備品や訓練機材の提供を進めてきた。今回の会談でも、海上監視や捜索救難に資する機材の供与を表明する方向だ。単なる装備移転にとどめず、運用・整備を支える人材育成や制度面の整備まで含めたパッケージ設計が要となる。
東南アジアの沿岸警備や海上法執行の現場では、連携訓練や相互運用の確立が急務である。港湾での寄港訓練、通信手順の共通化、航行安全情報の共有など、地味だが効果の大きい分野が積み上がるほど、抑止力と危機対応力は底上げされる。OSAはその接着剤となりうる枠組みだと映る。
もっとも、装備の提供は地域の緊張を高めない配慮が不可欠だ。受入国の運用目的の明確化、透明性ある手続き、周辺国への丁寧な説明が求められる。海難救助や災害対応といった公共財の提供を前面に出し、重層的な信頼構築につなげられるか。現時点で確認されている範囲では、そのバランス感覚が各合意の肝になる。
脱炭素を成長の糧に――AZECが描く現実解
首相は、アジア・ゼロエミッション共同体（AZEC）首脳会議にも出席する予定だ。各国の事情に即した移行を尊重しつつ、発電や産業の脱炭素化を段階的に進めるのがAZECの骨格である。再生可能エネルギーの拡大はもちろん、電力ネットワーク強化や省エネ投資、低排出の熱利用など、実装の積み重ねが勝負どころとなる。
資金と技術をどう動員するかも焦点だ。移行金融のルールづくり、測定・報告・検証（MRV）の共通化、脱炭素設備の標準化は、官民の投資判断を後押しする。日本は系統安定化や産業電化での知見を持つ。域内の人材育成と組み合わせれば、実効性の高い案件形成につながる可能性が広がっている。
会期を通じ、エネルギー安全保障と気候対策の両立が鍵になる。電力安定や価格高騰への備えを欠けば、移行は長続きしない。だからこそ、段階的な削減と技術の選択肢を確保する「現実解」が求められる。27日に帰国する日程が見込まれる中、会議文書にどれだけ実務的な道筋が刻まれるかが注目点である。
