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白い波が荒れるカリブ海の映像が拡散するなか、アメリカのドナルド・トランプ大統領が2025年10月19日、南米の友好国コロンビアへの財政支援を今後は実施しないと表明した。自らのSNSでコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領を厳しく批判し、麻薬対策の不作為を非難した格好だ。9月以降の連続攻撃で緊張が高まる米州関係に、さらに強い圧力がかかる局面と映る。
支援停止の表明が映す緊張
トランプ氏は2025年10月19日、自身のソーシャルメディアに「コロンビアでは違法薬物の生産が奨励されている」との趣旨を投稿し、同国への「資金や支援金」の提供を止めると明言した。投稿は大統領の直截的な語り口そのままに、ペトロ大統領を「違法薬物のリーダー」と呼ぶ挑発的な表現を含み、緊張感を一段と高めたとみられる。
米政府の公開資料によれば、アメリカは2023年にコロンビアへ7億4000万ドル超の支援を実施してきた経緯がある。治安・代替作物・司法改革など幅広い分野に資金が流れ、両国関係の“骨格”を成してきた。仮に全面停止となれば、作戦費や技術支援を含む現場の取り組みに直接波及するため、地域の治安動向への影響は小さくないと映る。
もっとも、現時点で確認されている範囲では、支援の全停止か一部見直しか、いつからどう実行するかは不透明だ。大統領の投稿は政治的メッセージとしての強度が高い一方、実務の移行には議会手続きや省庁間の調整が不可欠である。言葉の先行が政策の既成事実化を狙うのか、それとも交渉の圧力装置なのか、読み解きは分かれる。
9月の「メジャーリスト」とワイバーの揺らぎ
今回の表明の背景には、9月の制度的な動きが横たわる。2025年9月15日、米政権は議会に「主要麻薬生産・密輸国」の年次指定、いわゆるメジャーリストを提出した。その中で、コロンビアは「十分な取り組みを行っていない」と判定され、厳しい評価を受けた。翌16日に公表された政権資料でも、改善を強く促す文言が並ぶ構図である。
もっとも、従来の枠組みでは、対外援助法の規定に基づく「免除措置（ワイバー）」が併用され、国家利益を理由に支援継続が認められる余地が残されてきた。現時点で確認されている範囲では、9月の認定に付随するワイバーの扱いがどうなるかは判然としない。トランプ氏の投稿は、この緩衝機能を事実上無効化しようとする政治的シグナルとも読める。
「制裁」と「協力」の両輪で麻薬対策を進める米州の常道に対し、今回の強硬メッセージは軸足を制裁側に大きく寄せる。Aは制度に沿った是正圧力の継続を示唆したが、Bは即時停止に近いトーンで伝えている、といった報道上の揺れも見られる。制度が許すグラデーションと、政治が求める即効性の齟齬が浮かぶ。
カリブ海で続く攻撃、深まる相互不信
両国関係をさらに冷やしたのが、カリブ海で相次いだ小型船・潜水艇への攻撃である。9月中旬、コロンビアの漁民が米軍の攻撃で死亡したとする訴えが浮上し、ペトロ氏は「殺人」だと強く非難した。米側は麻薬運搬船を標的とした正当な作戦だと主張するが、攻撃対象の船や乗員に関する詳細な説明や証拠の提示は限定的だと報じられている。
10月16日には潜水艇への攻撃が伝えられ、2人が死亡、初めて生存者が確認されたという。トランプ氏は情報機関がフェンタニルを中心とする違法薬物の積載を把握していたと主張したが、現場証拠の公開範囲は限られる。国連の人権専門家らが一連の空爆を「超法規的な処刑」と批判したとの報もあり、国際的な監視の目が強まっている。
現場で起きたことの全容はなお霧の中にある。米軍の作戦は米州全体の麻薬流入を断つ狙いだが、民間人被害の疑念が交錯すれば正当性は揺らぐ。コロンビア側は主権侵害を訴え、捜査や説明を求める構えだ。米国内の麻薬危機という内政課題と、近隣諸国の生活と主権が交差する場所で、政策は最も難しい均衡を迫られているといえよう。
問われるのは「結果」と「関係」
支援停止のメッセージは、コカの根絶、コカイン供給の減少、暴力の抑制という測れる指標に結びつくかが問われる。他方で、長年の制度協力が途切れれば、現地の代替生計や司法改革の事業は足踏みしかねない。結果を急ぐあまり関係を壊せば、取り締まり網の目が粗くなる逆説もある。数字と人間の生活、その両方を見通す視線が必要である。
今後の焦点は三つある。第一に、ワイバーの行方と実際の資金の流れである。第二に、カリブ海での作戦の透明性向上と検証の仕組みだ。第三に、コロンビア政府が提示する国内対策と対話のロードマップである。強硬と協働の距離感をどう調整するか。静かな海はまだ遠いが、事実を積み上げる以外に航路は開けない。
