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冷たい雨上がりのイスタンブールで、黒塗りの車列がホテルの地下駐車場へ滑り込んだ。2025年11月3日、トルコのフィダン外相は、ガザ向けの「国際安定化部隊」に関する国連安保理のマンデートを各国が詰めていると述べ、枠組みが固まり次第、派遣の是非を決める考えを示した。停戦の実効性と人道支援をどう担保するか、現場の重さがにじむ発言である。
イスタンブールで交わされた現実感
会場に入る各国外相の表情は硬かった。トルコは同日、カタールやサウジアラビア、UAE、ヨルダン、パキスタン、インドネシアの閣僚を招き、米国仲介の停戦合意の履行状況と次の手順を協議した。フィダン氏は、安保理の付託に向けた作業が続いており、枠組みがまとまり次第に部隊派遣の判断に移ると説明したとされる。現時点で確認されている範囲では、議論は「誰が、どこまで、いつまで」を詰める段階に入っていると映る。
一部報道によれば、安定化部隊の国連決議は数週間以内の取りまとめを目指す見立てもあるが、部隊の任務範囲やイスラエル軍の撤収時期、現地警察との役割分担などで溝が残るという。イスラム圏の閣僚らは、治安と統治は原則としてパレスチナ側が担い、国際社会はそれを制度面と資金面で支援するという骨格を共有したとみられる。現地の実務に耐える設計図を描けるかが問われる局面だ。
トルコは自らの関与に前向きだが、イスラエル側はトルコ部隊の参加に難色を示してきた経緯がある。参加国の顔ぶれや役割分担は、安保理の議場だけでなく、地域の思惑が交差する各国首都でも調整が続く。イスタンブールでの肩寄せ合う集合写真の裏側には、政治と安全保障の複雑な計算が横たわっているといえる。
揺れる停戦、食い違う主張
停戦は続くが、互いの非難も続く。イスラエルとハマスは双方が合意に違反していると責め立て、信頼の土台は揺れている。フィダン氏は会見で、イスラエルが定期的に合意に反しているため完全実施に問題があると指摘し、十分な人道支援の受け入れを義務として履行すべきだと訴えた。停戦を文字通りの「停止」ではなく、人が生き延びる仕組みに変える必要があるとの危機感がにじむ。
これに対し、イスラエル政府の報道官は「毎日何百台もの援助トラック」を受け入れていると主張する。数字の攻防は続くが、現地で必要な物資が滞りなく届くかどうかが唯一の評価軸だろう。現時点で確認されている範囲では、搬入台数の増減と停戦違反の有無をめぐり、双方の認識は平行線だ。会談の焦点が人道状況の改善に置かれたのは、このギャップの大きさを物語る。
参加国の間には、停戦が脆弱なまま部隊を送れば、隊員の安全や任務の正当性が揺らぐとの懸念も広がっている。空からの爆撃が断続的に続く状況で、地上の兵士が治安維持を担えば、住民と部隊の双方が板挟みになりかねないという肌感覚がある。安定化部隊の議論は、停戦の信頼性を底上げする取り組みと裏表で進めるほかないとみられる。
安保理の行方と部隊の輪郭
安保理のマンデートを得るには、任務の目的と終了条件を明確にし、現地のパレスチナ当局や民警とどう連携するかを定義する必要がある。主導国の在り方や、武装解除や境界管理といった高リスク任務をどこまで引き受けるかも難所だ。さらに、ガザでのイスラエル軍の展開と国際部隊の動線が交錯すれば、指揮系統の混乱を招く恐れがある。設計の甘さは、現地でそのまま人的被害に跳ね返る。
一部報道では、ヨルダンは部隊派遣は想定せず、パレスチナの警察訓練で関与を模索する選択肢が示されている。こうした役割の多様化は、現地の受容性を高めると同時に、国際部隊が過剰に統治機能を肩代わりする事態を避けるための工夫ともいえる。鍵は、パレスチナ人が自身の治安と統治を担い、国際社会がそれを下支えするという原則を、実務の細部に落とし込めるかどうかだ。
イスタンブールの会場を後にする各国代表の足取りは重かった。雨粒の残る石畳に、合意の輪郭はまだはっきり映らない。それでも、安保理の文言と現場の手順がかみ合う日が来れば、ガザの朝は少し違うものになるかもしれない。静かな希望と不安が、同じ空の下で揺れている。
