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秋の国会が始まった永田町で、午後の本会議場に緊張が走った。2025年10月24日、高市早苗首相が所信表明演説で、防衛費（関連経費を含む）を今年度中に対GDP比2%へ引き上げると明言した。岸田政権下の計画を2年前倒しする判断で、日本の安全保障と財政運営の針路を大きく左右する一手と映る。
2%を今年度中に—前倒しの意味
政府は2022年に策定した国家安全保障戦略で、2027年度に「安全保障に関連する経費」を対GDP比2%水準に引き上げる方針を示してきた。現時点で確認されている範囲では、公式文書は27年度を基準としており、今回の発言はそのタイムラインを大きく塗り替える内容になる。
首相は演説で「新しい戦い方の顕在化」など環境変化を挙げ、主体的な防衛力強化の必要性を強調した。補正予算と当初予算を組み合わせ、2025年度中に2%を達成する考えを示した格好だ。弾薬やスタンドオフ、サイバーなど即効性ある分野への重点配分が浮かぶ。
関連経費には装備取得だけでなく、研究開発やインフラ強靭化、海保の体制整備などが含まれる。年度内達成には執行体制の確保が鍵となり、調達現場の人員や産業側の生産力、価格高騰への対応まで、複数のボトルネックを一気に乗り越える必要があるとみられる。
財政の舵—「純債務」とPBのあいだ
一方で、財政運営の座標軸も変わる。演説は基礎的財政収支（PB）の黒字化に直接触れず、政府債務残高の対GDP比を抑制・低下させる考えを前面に出した。成長率の範囲内で債務の伸びを管理し、市場の信認を保つというロジックで、戦略的な財政出動に道を開く構図だ。
PBは単年度の収支均衡を測る指標で、景気変動に左右されやすい。対して債務残高対GDP比は中期の視点で持続可能性を点検できるが、赤字の継続を許容しやすい側面もある。首相が掲げる「純債務比率の緩やかな低下」を軸にする場合、投資と規律の線引きが一段と問われる。
物価高対策では現金給付は用いないとし、燃料価格の負担緩和に向けてガソリン税や軽油引取税の暫定税率の扱いを見直す方針を示した。医療・介護の現場支援や「年収の壁」への対応も挙げ、税・社会保障の一体改革を議論する国民会議の設置を打ち出したとされる。
同盟と世界の圧力—2%の外側にある数字
国際環境も前倒しの背景にある。北大西洋条約機構（NATO）では、防衛支出の新たな水準を巡る議論が活発化し、5%目標をめぐる観測が報じられてきた。他方で、負担が過大だとして異議を唱える声も強く、足並みはなお流動的だ。各国の政治と財政の制約が交錯している。
日本の「2%」は防衛省予算だけでなく、安全保障に関連する広い経費を対象とするのが特徴である。政府の防衛白書は、海上保安庁や公共インフラの強靱化、技術開発なども積算に含める枠組みを説明している。国際比較の指標を意識しつつ、国内の事情を織り込む設計だ。
首相は防衛・外交力の強化を総合経済対策の柱に据え、26年中の防衛3文書改定にも言及した。年度内2%を打ち出した以上、財源の裏付けと執行計画の実効性が次の論点になる。国会審議は、抑止力の底上げと家計・産業への影響をどう両立させるかを正面から試す場となる。
