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英国政府は12月9日、中国に拠点を置くテクノロジー企業2社「i-Soon」と「Integrity Technology Group」に制裁を科した。英国や同盟国の政府・民間を含む80件超のITシステムに対し、無差別で重大なサイバー攻撃を行ったと結論づけたためだ。翌10日、中国外務省は強い不満と断固たる反対を表明し、安全保障を口実とした「政治的操作」だと反発した。サイバー空間での攻防が、外交関係と市民の安全を同時に揺さぶり始めている。
英が狙う「ハイブリッド脅威」封じ込み、その先にある市民リスク
英国外務省は、2社を「無謀かつ無差別なサイバー活動」の担い手だと位置づけた。i-Soonは世界各国の政府機関や企業など80を超えるネットワークを標的にし、Integrity Technology Groupは隠れたサーバー網を運用し他者の攻撃を支援したとされる。英国家サイバーセキュリティセンターは、こうした企業群が中国当局と結びついた複雑なサイバー産業の一角だと分析し、国家ぐるみの攻撃能力を支える存在だとみている。
この2社に対しては、米財務省も2025年初頭に制裁を発動し、米国内の重要インフラを狙った侵入に関与したと指摘していた。欧米の複数の政府機関は、同社らが開発する侵入ツールが、情報機関や治安当局に提供されていると警告する。チェコのサイバー当局も、欧州の政府や国際機関を標的とした作戦に関わった可能性を公表し、同様の懸念を共有している。今回の英制裁は、こうした一連の動きを踏まえた「包囲網」の一部と言える。
英国が強調するのは、サイバー攻撃が偽情報の拡散や経済圧力と組み合わさる「ハイブリッド脅威」だ。選挙や世論形成を狙う情報操作と、行政サービスや金融システムを止めかねない攻撃が同時進行すれば、市民は気づかないまま生活基盤を揺さぶられる。制裁は関係企業の資産凍結や取引禁止を通じ抑止を狙うが、攻撃の全容を市民が直接確認するのは難しく、その評価はどうしても政府の説明に依存せざるを得ない。
中国は「政治的操作」と反発、揺れるサイバー秩序の線引き
これに対し、中国外務省の報道官は、英国がサイバー安全保障を「政治的に操作している」と批判した。中国側は、自国は法に基づきハッキングを取り締まっていると強調し、根拠のない非難だと反論する。さらに、英国に対して北京とロンドンの双方で厳正な抗議を行ったと明かし、制裁の撤回を求める姿勢を示した。サイバー攻撃そのものの事実認定よりも、「誰が誰を名指しで非難するか」が新たな対立軸になっている。
背景には、どこまでが正当なサイバー防衛で、どこからが攻撃なのかという国際的なルールの曖昧さがある。欧米側は、特定企業やグループを名指しして攻撃内容を公開し、制裁リストに加える方針を強めている。一方、中国は、これを対中包囲網の一環とみなし、主権侵害だと反発する。大学や研究機関の共同研究の扱いにまで安全保障の議論が及ぶなか、技術交流に関わる研究者や企業は、知らぬ間に制裁の渦中に巻き込まれるリスクを抱える。
サイバー空間のルールづくりは各国の思惑が交錯し、共通の線引きはいまだ固まっていない。今回の英中対立は、市民の安全を守るための監視強化なのか、政治的な陣営争いなのか、どちらの色合いが濃いのかという問いを突きつける。各国が互いを名指しで非難し合う現状が続けば、企業や個人は相反する規制の狭間で身動きが取りにくくなる。緊張が高まるほど、透明性のある説明と、国際的に共有された最低限のルールが問われている。
参考・出典
- UK clamps down on China-based companies for reckless and irresponsible activity in cyberspace
- National Cyber and Information Security Agency – NÚKIB Supports the UK in Calling Out Malicious Cyber Activities Used by Chinese Companies I-S00N and Integrity Tech
- Beijing protests ‘political’ UK sanctions on Chinese cyber firms
- UK sanctions Russian and Chinese firms suspected of being 'malign actors' in information warfare
