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冷たい風が抜ける線路沿いに、土のうが積まれていく。ロシアの攻勢が強まる東部で、要衝ポクロフスクの防衛強化をウクライナ軍が2025年10月27日に明らかにした。米国による停戦仲介が実らぬまま、補給と避難の動脈をめぐる攻防が次の局面を左右するとみられる。街の名が前線の空気を帯びて広がっている。
線路の町で高まる緊張
ウクライナ軍は2025年10月27日、東部ドネツク州ポクロフスク周辺での防衛態勢を急ぐと発表した。市内への進入が相次ぎ、約200人のロシア兵が内部に入ったと伝えた。ただし、現時点で確認されている範囲では、公的資料での裏付けは限定的で、独自検証が進む余地も残ると映る。
ゼレンスキー大統領は2025年10月26日、ポクロフスク市内と周辺で激しい戦闘が続くと述べ、前線の逼迫を示した。ロシア国防省も鉄道駅の周辺で前進を試みていると発表しており、線路と踏切が攻防の焦点になっている構図が浮かぶ。市街戦の難しさがにじむ局面である。
街では避難の車列が細り、残る住民は地下や廊下に身を寄せる。防衛側は土のうと鉄条網で動線を狭め、対戦車障害を増やす動きが広がっている。現地の部隊は小隊規模の押し引きが繰り返されるとし、砲爆とドローン迎撃の稼働が増すほど、兵站の確保が生死を分けると映る。
なぜポクロフスクが要衝なのか
ポクロフスクはドネツク州西部の道路と鉄道の結節点である。戦前は約6万人が暮らしたが、相次ぐ攻撃と避難で人口は大きく減ったと報じられてきた。ここが抑えられれば、チャシウ・ヤールやコスチャンティニウカ方面の補給に圧力がかかり、前線全体の動きにも波及するとみられる。
市の西側にはコークス用原料炭の鉱山があり、ウクライナの製鉄を支えてきた。2025年初頭には接近する戦闘を受けて操業停止に追い込まれた経緯がある。産業と軍事が一体で傷つく構図は重く、鉱山や鉄路の機能低下は地域経済と軍の持久力を同時に削る現実を突きつけている。
ロシア側が同市を「ドネツクへの門」と位置づける背景には、奪取後の進路が複数開ける事情がある。補給路の分断に加え、高地の制圧や周辺都市への圧力強化が視野に入るためだ。ウクライナ側は都市縁辺の陣地を層状に構え、接近戦を強いられても消耗を抑える布陣を固めている。
仲介の空白と「10月15日」の影
トランプ米大統領の停戦仲介の試みは進展なく、関係国の立場の溝は埋まっていないと受け止められている。交渉の座標が定まらないまま、現場は事実上の既成事実の積み上げで情勢が決まる局面に入りつつある。政治の停滞が戦場の熱を冷ましきれない構図である。
ゼレンスキー大統領は米メディアの取材で、情報機関の分析として、プーチン大統領がドネツク州とルハンスク州で構成するドンバス全域を「2025年10月15日までに掌握する」と主張していたと述べた。一方で、この点は独自に確認されていないとの報道もあり、受け止めには幅が残る。
もし短期の掌握を狙う意図が強いなら、ポクロフスクを巡る圧力は当面弱まりにくい。冬季の泥濘化や航空・電子戦の優劣、砲弾供給の持久力が前線の針路を左右する。小さな前進と後退の積み重ねが地図の色を変えるのか。街の線路に舞う粉塵が、その答えを急がせている。
