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電話口で数を区切るように示したのは、米陸軍のダニエル・ドリスコル長官だ。陸軍は今後2〜3年で少なくとも100万機のドローンを調達し、その後も年50万〜数百万機の規模に拡大する見通しを明らかにした。ウクライナとロシアの戦場で前例のない投入が続く中、同軍は「精巧な装備」から使い捨て前提の発想へと舵を切る。大量調達は負荷が大きいが、実行可能だと長官は強調した。
量の発想に舵を切る
発言が伝えられたのは2025年11月8日、陸軍の調達方針に関する電話インタビューである。ドリスコル長官は、現在の調達が年約5万機にとどまると指摘しつつ、今後2〜3年で少なくとも100万機という目標を掲げた。従来の「高価で長寿命」の無人機観を見直し、弾薬のように消耗を織り込む「アトリタブル（消耗可能）」な小型機を中心に構成する考えだという。計画の柱は、任務に応じて数を重ねる運用であり、個体の精密さよりも全体の厚みを優先する設計思想にある。
長官は「大幅な拡大だが遂行可能だ」と述べ、具体的には小型の偵察・観測・攻撃用途を広くカバーするラインアップを想定する。航空法規や運用要件に適合する範囲で、既存の商用品を改修して迅速に部隊へ配る手順を整えることが前提だ。部品やソフトウェアの標準化を進め、現場での修理や交換を難しくしないことも重視する。数を積み増すことで、電子戦や防空に直面しても継戦能力を保つ狙いがある。
この転換の背景には、有人機や大型UASでは補いきれない観測・打撃の頻度がある。小型機は価格が低く、短期の習熟で扱えるため、部隊単位の自律性を高めやすい。損耗を恐れて温存するより、任務に応じて素早く飛ばし、足りなくなれば補充する発想に切り替えることで、前線の判断と火力のテンポを一致させる狙いが見える。
生産能力と供給網の現実
長官は、ウクライナとロシアがそれぞれ年間約400万機を生産し、中国はその2倍以上の能力を持つと見積もる。米側が対抗的な態勢を築くには、完成機だけでなく、ブラシレスモーター、センサー、電池、基板といった基幹部材まで射程に入れた国内調達網の整備が欠かせない。中国依存が大きい分野をどう置き換えるかが、量を達成するうえで最大の現実的制約になる。
ドリスコル氏は「1〜2年後には、紛争時に必要な数を製造できる強固なサプライチェーンを立ち上げられる」と語った。ここでいう強固さは、単一拠点に頼らずに生産を切り替えられる分散性と、需要急増時に原材料から最終組立まで段階的に増産できる弾力性を指す。部材の代替選定や輸送経路の多重化といった地味な設計が、数字の大きさを裏打ちする。
生産側の能力だけでなく、受け入れる側の整備・補給の回路も磨き直す必要がある。小型で数が多いほど、記録・検品・在庫の仕組みが成績に直結する。標準化されたバッテリー規格やコネクター、共通の診断アプリなど、現場のオペレーションを軽くする工夫が欠かせない。量の議論は、運ぶ、直す、捨てるまで含めた全体設計と結びついて初めて現実味を帯びる。
調達の見直しと広がる協業
国防総省では、DOGE部門が今後数か月での見直しを主導し、数万機規模の安価な機体を含むドローンプログラムの再設計を進めていると伝えられる。2023年に掲げた自律型無人機の迅速配備構想とも連動し、価格と量の最適点を探る段階に入った。規模を優先する局面では、調達プロセスの単純化と、承認の階層を減らすことがボトルネックの解消につながる。
ドリスコル氏は分散調達を重視し、特定の防衛大手に依存しない方針を示した。商業用途も手がけるドローン企業と協力し、配送や測量など民生市場で磨かれた設計と製造の強みを取り込む狙いだ。量産の土台が既にある企業を巻き込み、軍用要件に必要な耐環境性や暗号化、電磁耐性を追加するかたちで時間を縮める。資金は単一の巨大工場に集約せず、複数の供給源へ薄く広く通すという。
その一方で、政策や法規の調整も並走する。供給網の再編は、既存兵器の整理や予算の再配分と表裏一体である。老朽装備の廃止や研究開発費の配分転換は、地域経済や雇用に波及するため、議会の理解が鍵になる。計画の実効性は、量を掲げるだけでなく、調達・産業・立法の接点をどこまで滑らかにできるかにかかっている。
現場で試す、防ぐ、学ぶ
長官はPicatinny Arsenal（ピカティニー兵器廠）を訪れ、ドローンを捕獲するネット弾や、新型炸薬、電磁ツールの統合など、現場の実験を確かめたと語った。実射と電子戦の双方で手数を増やし、対抗策の価格も引き下げる取り組みである。大規模調達の前段として、こうした小さな試行を束ね、量産設計に落とし込む作業が続く。
前線では、小型機の迅速な再補給と運用テンポの維持が戦闘様相を左右する。機体の消耗は避けがたいが、センサーや通信、航法の基幹機能を簡潔に保つことで、訓練と維持の負担を抑えられる。無人機が空と地上で常時巡る環境では、発見から打撃までの時間を短くする指揮統制の設計も問われる。大量調達は、その回路を太くするための前提条件になる。
数を積み上げる計画は、素材の供給から人の手つきまで、見えない層を静かに動かし始めている。壮大な数字の裏側で、部品箱の中のコネクターやバッテリーの規格が揃えられていく。戦場での変化は急だが、そうした地道な合わせ目が整っていれば、必要なときに必要な数が、迷いなく手元に届くはずだ。
