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秋の光が差し込むマドリードの会場で、米中の交渉団が静かに席に着いた。中国側が大型の対米投資パッケージを約束する代わりに、国家安全保障を理由とする対中規制の緩和を求めたと報じられている。実現すれば、約10年続いた「封じ込め」の構図が揺らぐ。TikTokの米事業を巡る枠組み合意や首脳間の対話の再開が、流れを変える伏線として浮かぶ。
マドリードで交わされた「取引」の骨子
2025年9月15〜16日、スペインのマドリードで米中の経済・通商高官が向き合った。中国の何立峰副首相、米国のスコット・ベッセント財務長官、ジェミソン・グリア通商代表が同席し、投資やデジタル分野を含む幅広い論点で協議したとされる。現時点で確認されている範囲では、両国はTikTok問題の適切な解決や投資障壁の削減などで「基本的枠組み」に合意した。
一方で、交渉の非公開部分では中国が米国への大型投資を打ち出し、見返りに国家安全保障を根拠とする各種規制の緩和を求めた、との観測が広がっている。関係者の話として、米国内に中国企業が建てる工場で使う中国製部材への関税の引き下げも要求に含まれると報じられた。提案額の規模は明らかでなく、年初に示唆された1兆ドル級の数字から修正された可能性も残る。
合意文書の作成は次段階とみられ、双方で国内手続きを進める段取りだ。枠組みは投資の「環境」を整えることに重心が置かれ、単純な購買拡大からの転換がうかがえる。誰に有利なのか──投資が雇用や供給網の再構築を後押しする一方で、国家安全保障の線引きの再設計を迫る可能性がある。
投資でほどく安全保障の結び目は可能か
米国の対中規制は、輸出管理や対米投資審査、連邦調達、大学や研究機関への資金の扱いなど、制度の網の目が重なり合っている。中国の提案は、この結び目の一部を「投資」という梃子で緩める狙いと映る。だが、規制の大枠は安全保障の評価に根差すため、投資額や雇用創出の数字だけでは動かない層が厚いのも事実だ。
政権内外では温度差もある。通商や財務の実務部門は景気やサプライチェーンの観点から柔軟性を探る一方、安全保障や議会の強硬派は技術流出や依存度の高まりに警鐘を鳴らす。米政権初期からの「リセット」機運は、対中強硬論の反発で幾度も揺れてきた経緯がある。今回の提案も同じ力学にさらされるとみられる。
ホワイトハウスは具体的な協議内容の言及を避けつつ、中国が既存の義務を履行するか注視する姿勢を示したと伝えられる。ここでいう義務には、第1期トランプ政権期に結んだ「第1段階合意」に沿う対米輸入やルール整備が含まれるとの見方がある。投資をてこに規制を動かすのか、履行の実績を積ませて信頼を回復させるのか、選択肢の配列が問われている。
TikTok合意が映す空気の変化
今回の動きを象徴するのが、プラットフォーム企業TikTokの米事業を巡る扱いだ。9月のマドリード協議では、アルゴリズムやコンテンツ管理の取り扱いも念頭に、運営維持へ向けた「適切な解決」に関する基本枠組みが共有されたと報じられている。対立の象徴だったテーマが、管理と透明性の枠組みづくりへと重心を移す兆しが出ている。
その数日後の2025年9月20日ごろには、両国首脳の電話会談が伝えられた。会談の詳細は限定的ながら、投資やデジタルルールを含む案件で実務協議を継続する方針が確認されたとみられる。10月下旬からの国際会議に合わせた直接会談の可能性も取り沙汰され、対話の接点は広がっている。
とはいえ、合意の地平はまだ遠い。関税や補助金、重要鉱物や半導体の輸出管理など、摩擦の火種は各所に残る。米議会の与野党や州政府、さらには企業の投資判断も絡み、一本の「大型投資」で解けるほど単純ではない。偶然の追い風なのか、必然の舵切りなのか。次の一手が、10年の均衡をどこまで動かすかが注目点だ。
