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潮の匂いが濃くなる早朝、岸壁に着いた船員たちは新しい計算書をのぞき込み、ため息をついた。アメリカと中国の貿易摩擦が再び火花を散らし、14日から双方が相手国に関わる船舶へ港湾使用料（サービス料）を課し始めたのである。航運の現場で即座にコストが動き、海上のルールが書き換わる。世界の物流に新たなうねりが走ったといえる。
新料金が動き出した現場で何が起きているか
中国は14日、アメリカ企業や個人が所有・運航する船舶、アメリカで建造された船舶、米国旗を掲げる船舶などを対象に「船舶特別港務費」の徴収を開始した。初年度の水準はネットトン当たり400元で、同一航次で複数の中国港に寄港しても初寄港のみの徴収とされた。対象船は同一船舶で年5航次までの上限が設けられ、現場の代理店は計算と証憑の確認に追われている。
料金は段階的に引き上げられる設計だ。2026年4月17日に640元、2027年4月17日に880元、2028年4月17日には1120元へと上がる見通しである。一方で、前記の所有・運航・旗国の基準に該当しても、中国で建造された船舶は免除される条項が置かれた。空船で修理に入る場合など特定の例外も示され、港ごとに告示の読み込みと運用指針の共有が進んでいるように映る。
同日、米側の制度も動き出した。米通商代表部は4月17日の決定に基づき、180日の移行期間を経て14日から中国の船社や中国建造船を対象に航次ごとのサービス料を課す。料金は“積み増し不可”で、1航次あたり1種類、年5回までという枠組みだ。港に近い埠頭では、船社のオペレーション担当が寄港順やバース割を見直し、負担の波及を最小限に抑えようとする姿が浮かぶ。
互いの制度設計と狙い
米側の骨格は、中国の海運・造船・物流分野を標的としたセクション301措置である。実施初年は、中国の船主・運航者に対しネットトン当たり50ドル、中国建造船にはネットトン当たり18ドルまたはコンテナ1個当たり120ドル、さらに外国建造の自動車運搬船には1台分の能力当たり150ドルという設定が示された。航次単位・非累積・年5回上限という仕様は、事業者の調整余地を残す設計と映る。
その後、米側は10日に一部見直しを公表し、自動車運搬船の算定基準を能力ベースからネットトン基準へと改め、14日付でネットトン当たり46ドルとした。制度の微修正は続く可能性があり、当面は通達や通関実務の更新に現場が追随する局面が続く。中国側は自国海運の権益保護と「対等な対応」を掲げ、適用対象や免除規定を細かく定義することで、狙いの輪郭をくっきりさせてきたといえる。
背景には、戦略産業をめぐる緊張の高まりがある。先週には中国がレアアース輸出の管理強化を打ち出したとの報が広がり、米政権は海運や港湾機器まで射程に入れる姿勢を崩していない。現時点で確認されている範囲では、米側は港湾クレーンなどに対する高関税や追加措置を検討しつつ、海上輸送の料金体系で中国依存をそぐ狙いをにじませている。
広がる波紋と次の一手
費用転嫁は避けにくい。ばら積みや車両運搬、コンテナの各市場で、航路や船型によって負担の振れ幅が異なるため、運賃やサーチャージの再設計が広がっている。とりわけ寄港回数が多い航路や大型船では、航次上限や非累積のルールを織り込んでも、年後半にかけてのコスト上振れが意識される展開だ。船社と荷主の契約条項見直しが加速しているとみられる。
外交の往復も続く。14日、中国商務省は「争いがあれば最後まで戦う一方、対話の扉は開いている」との姿勢を示し、米側も対話継続の意向をにじませた。米通商代表は同日、100％関税の発動可否は中国の対応次第だと述べ、緊張と対話が同居する局面が続く。市場では、希土類や港湾機器の供給不安と運賃上昇が重なるリスクが意識され、神経質な値動きが広がっている。
年内の落としどころは見通しにくいが、制度は刻々と動く。中国側の特別港務費は毎年4月17日に段階的に引き上がり、米側もコメント手続や見直しを重ねる構えだ。関税や料金が政策のレバーとなる時代に、企業は「いつ・どこで・どの船型に・いくら」が変わりうる前提で設計を見直す必要がある。海の上の新しいゲームのルールは、しばらく続くと映る。
