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手荷物検査場の列がじわりと伸び、案内板には「遅延」の赤い文字が並ぶ。米政府機関の一部閉鎖が34日目に入り、航空の要である航空管制官の不足が各地で表面化している。無給勤務が長引くなか、病欠などの欠勤が増え、運航の遅れが連鎖している。安全を最優先する運航の原則が、政治の膠着に押し流されつつある現実がにじむ出来事である。
伸びる列、重くなる空
2025年11月3日、空港の朝はざわめきが濃かった。現時点で確認されている範囲では、米連邦航空局が人員不足に伴う処理能力の低下を示し、ダラスやワシントン周辺、ヒューストンなど主要空港で離着陸の調整が続いている。前週にはボストンやシカゴ、フィラデルフィア、ニューヨーク圏でも同様の報告があり、地域ごとの小さな遅れが、国全体の運航に波紋のように広がっていると映る。
閉鎖により、約1万3000人の航空管制官と約5万人の運輸保安局職員が無給で勤務を続けている。給与の支払いが止まると、現場の士気や生活の不安が増し、欠勤の増加につながる。安全確保のためには管制席を減らして処理量を抑えるしかない局面もあり、空港内では「待つしかない」時間が人々の会話を覆う。静かな疲労が広がっているとみられる。
数字が語る逼迫
10月上旬、政府閉鎖が1週間を超えた時点で、連邦航空局はナッシュビルやダラス、アトランタ周辺の管制施設など複数拠点での人員不足を報告した。運航データでは、平日2日間で計1万件規模の遅延が生じた日もあり、首都圏のロナルド・レーガン空港やニューアーク空港、ヒューストンの空港で到着・出発の調整が続いた。遅延は天候や機材も絡むが、現場の人繰りがボトルネックとなる比重は明らかに増しているとみられる。
運輸当局は「通常時は遅延の約5％が人員要因だが、直近では半数超に達した」との認識を示した。安全基準を守るための処理能力の引き下げが遅延の連鎖を生む構図である。一部報道では、南カリフォルニアの空域やニューヨーク圏でも時間帯限定の減速運用が確認された。運航の現場は、欠勤の出方や時間帯ごとの配置で日々の安定度が揺れる綱渡りの状態にあるといえる。
「空域を閉じる」警告と政治の膠着
ダフィー運輸長官は、政府閉鎖の影響で移動リスクが過大と判断すれば米国の航空システムを一時的に停止する可能性を示唆した。現時点では「安全でない状況には至っていない」としつつも、無給勤務が続く現場の疲労と欠勤が拡大すれば、空域全体の安全余裕度は薄まる。航空管制官と保安職員の献身で空が保たれているが、その献身が制度に支えられていないという逆説が浮かぶ。
一方で、旅行需要は秋の行楽から年末に向けて高まる局面に入る。業界団体や労組は、先の見通しが立たない閉鎖が長引けば、休暇シーズンの運航計画や人繰りに深いしわ寄せが出ると警鐘を鳴らしている。政治の対立は続いたまま、空の安全は現場の配慮と負担でかろうじて守られている。滑走路脇に沈む夕日と、到着を待つ人々の視線が交差する光景に、静かな緊張が滲んでいる。
