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画面の「参加日」をタップすると、小さなウインドウが開き、そこに表示された国名にユーザーたちは息をのんだ。星条旗や「MAGA」を掲げて米国愛を叫ぶXアカウントの多くが、実はナイジェリアやバングラデシュ、タイなど国外に拠点を置いていたのだ。2025年11月下旬に導入された新機能「このアカウントについて」は、透明性を高める狙いで始まったはずが、世界的な「なりすまし」や影響工作の実像を白日の下にさらし、政治とSNSの関係に改めて光を当てている。
X新機能が浮かび上がらせた外国発の「愛国者」たち
イーロン・マスク氏が率いるXは、アカウントの参加日を押すと「このアカウントについて」が開き、拠点とみなされる国や主なアクセス元、利用しているアプリストアの種類が表示される仕組みを導入した。開発を主導したプロダクト責任者ニキータ・ビア氏は、この機能をXの健全性を高めるための出発点だと説明している。ユーザーは、長く謎だった政治アカウントの「出どころ」を、自分の手で確かめられるようになった。
ところが実装直後から、トランプ氏を支持する右派アカウントの一部が次々と国外拠点であることが判明した。米在住を名乗るのにナイジェリアや東欧につながっていたり、「米国第一主義」を掲げつつバングラデシュから投稿していたりする例が相次いだ。偽情報監視団体ニュースガードは、こうした影響力の大きいトランプ支持アカウントが、過去1年余りで少なくとも30件以上の虚偽情報を広めたと指摘し、その中には民主党の汚職疑惑をあおる内容も含まれていたと分析する。
研究者が追っていたネットワークと、あらわになった限界
新機能は、以前から研究者たちが警告してきた「海外産の米国人なりすましネットワーク」を裏づける形にもなった。ロンドン拠点の情報レジリエンスセンターの調査チームは、欧州のモデル写真などを盗用し「トランプ氏を支持する無党派層女性」を名乗るアカウント群を追跡してきたが、新しい表示によって、その多くがタイから投稿され、一部はミャンマーともつながっている可能性が見えてきたという。インド拠点と表示されたトランプ氏支持アカウントや、ナイジェリアから接続していたイヴァンカ氏のファンページなども確認され、これまで断片的だった疑念が線でつながりつつある。
一方で、X側も「国または地域は正確でない可能性がある」との注意書きを添えている。VPNやプロキシ経由の接続、出張や移住などで位置情報が変わる場合もあるからだ。実際、導入直後にはアカウントが作成された場所の表示に誤りが多く見つかり、Xは古いアカウントで精度が低いとして、この項目をいったん非表示にした。ビア氏は、不具合はいくつかあるが数日内に修正し、位置情報の精度を99.99%に近づけると約束しており、技術的な試行錯誤が続いている。
可視化された影響工作と、プラットフォームに突きつけられた課題
政治的に分断した環境では、新機能そのものも対立の材料になった。右派系の有名人が左派アカウントの怪しい所在地を指摘する一方で、左派側もトランプ支持アカウントが海外拠点だと暴露しあう構図が生まれた。だが、偽情報研究者たちが懸念するのは、単なる「揶揄合戦」を超えた構造だ。ロシアや中国に近い勢力が西側諸国の政治をかく乱しようとしている可能性に加え、SNSからの収益を狙って過激な投稿を量産する海外インフルエンサーが増えていると指摘される。人手によるファクトチェックやコンテンツ管理が縮小される中で、こうした行為者が活動しやすい土壌が広がっている。
ジョージア工科大学のエイミー・ブルックマン教授は、今回の騒動はソーシャルメディアが抱える根本的な問題を映していると見る。つまり、金銭的な報酬や影響力を求めて雇われた人々が、複雑で対立を生みやすいテーマに介入し、意図的に感情をあおっているという構図だ。Xは言論の自由が制限された国向けに、国名ではなく地域だけを表示するトグルを設けたと説明するが、反体制派や活動家の安全に不安を抱く声も根強い。画面の小さな表示をめぐる議論は、私たちがどのような仕組みの上で言葉を交わしているのかを問い直すきっかけにもなりつつある。
夜更けのタイムラインに静かに並ぶ投稿の背後で、どこの誰が何を狙って発信しているのかを見極める作業は、これからも続いていきそうだ。
