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ウクライナのゼレンスキー大統領が12月10日、戦時下での大統領選挙の実施に向けた法的な課題などについて議会と協議したと明らかにした。選挙の早期実施を促す米国などに対しては「圧力は不要だ」と牽制しつつ、同盟国が投票の安全を保証できるなら3カ月以内に選挙を行う用意があるとも表明している。ロシアの侵攻が続き、任期満了から時間が過ぎた大統領が権力を担い続ける中で、主権国家としてどう民主的正統性と市民の安全を両立させるのかが焦点になっている。
戦時下の選挙が突きつける「安全」と「代表」のジレンマ
ウクライナでは、ロシアによる全面侵攻を受けて発令された戒厳令の下で全国的な選挙を行うことが法律で禁じられている。ゼレンスキー氏の大統領任期は前年に満了しているが、戦争が収まらないため次の選挙が実施されず、非常時の継続体制が続いている。法制度を守ることと、国民に新たな代表を選ぶ機会を与えることのどちらを優先するのかという難題が、長期化する戦争とともに重くのしかかっている。
海外メディアは、仮に選挙を強行すれば前線の兵士や国内外に避難した市民の投票機会をどう確保するか、投票所がロシア軍の攻撃対象にならないかといった現実的なリスクを指摘している。国土の一部が占領下にある状況では、有権者の一部が事実上排除され、結果の正統性が逆に疑われかねないという懸念もある。ゼレンスキー政権が選挙の先送りを正当化する根拠には、単なる政治的思惑ではなく、こうした安全保障上の事情があることを強調したい思惑がにじむ。
ゼレンスキー氏は今回のビデオ演説で、議員たちと「実質的な協議」を行ったと述べ、「ウクライナに対する憶測は一切許さない」と言い切った。そのうえで、ワシントンの主要なパートナーなどが戒厳令下の選挙に言及するなら、あらゆる疑問や疑念に対しウクライナとして法的な回答を用意しなければならないと強調している。選挙の是非そのものよりも、「ウクライナ自身がルールを決めている」という感覚を国内外に示すことが、政権にとっての当面の課題になっているように見える。
同盟国とロシアの「選挙カード」にどう向き合うか
一方で、大統領選の実施を巡る議論は、ウクライナ国内だけで完結していない。ドナルド・トランプ米大統領は、ゼレンスキー政権が戦争を口実に選挙を避けていると批判し、新たな圧力をかけている。ロシアのプーチン大統領も、選挙が行われていないことを理由にゼレンスキー氏を「非合法な」交渉相手だと攻撃しており、両者は立場は異なりながらも「選挙」という論点を外交カードとして利用している。
ゼレンスキー氏は、こうした動きに対し、他国からの圧力ではなく安全保障面での支援こそが必要だと訴える。米国や欧州が投票の安全を保証できるのであれば3カ月以内に選挙を行う用意があるとしつつも、安全上の課題は主に同盟国の支援に依存し、政治や法の問題にはウクライナ自身が答えるべきだと線引きを示している。これは、支援国の民主主義への期待に応えつつも、選挙のタイミングと条件を決める主導権は譲らないというメッセージでもある。
ロシアによる侵攻が続く限り、選挙の延期は国際社会からの批判や相手国の宣伝材料になり続けるだろう。他方で、拙速な選挙は市民や兵士の安全を損ない、結果の正統性も危うくする可能性がある。ゼレンスキー氏と議会が今向き合っているのは、同盟国との信頼を保ちながら、どこまで自国の裁量でルールを定められるかという主権の問題であり、その判断が今後の和平交渉とウクライナ民主主義への信頼を大きく左右することになりそうだ。
参考・出典
- ゼレンスキー氏、大統領選巡り議員と協議 他国からの圧力拒否
- Zelenskiy says he discussed with Ukrainian parliament ways of holding election
- Ukraine hasn’t held elections since Russia’s full-scale invasion. Here’s why
- Zelensky discusses possibility of holding elections under martial law with Parliament
- Ukraine Considers Legal Path To Elections Under Martial Law As US Pushes For Vote
