ゼレンスキー大統領が前線視察、ポクロウシク周辺の防衛強化を指示

2025.11.06

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机を囲む司令官たちの前に、黒い服のウクライナ大統領が歩み寄った。うすぐらい司令室の机にはモザイク処理された地図が置かれ、短い握手のあと、銃声の届かぬ静けさの中で報告が始まる。2025年11月4日、ゼレンスキー氏が東部ドネツク州ドブロピリャ方面の前線を訪れ、圧力のかかるポクロウシク周辺の防衛態勢を確かめたという一日だった。

前線司令室で交わされた報告と要望

大統領は2025年11月4日、ドブロピリャ方向の指揮所で国家親衛隊第4機動旅団「ルビージ」や第1軍団「アゾフ」の兵士たちと面会した。作戦の現状や必要装備について意見を交わし、国家勲章を授与したことが公式に発表されている。現場の雰囲気は張り詰めていたが、会話は実務的で、今必要なものを列挙し優先順位をすり合わせる場となった。

やり取りの核心は無人機体系の拡充だった。重爆型の機体や地上ロボティクス、弾薬の規格化と集中供給をどう早めるか。兵士の安全を守る装備と、偵察から打撃までつなぐ運用の整備が語られたという。現場で感じた不足や改善点を前に、指揮官が淡々と必要量を示し、大統領は「互いを守れ」と静かに応じた。

ドブロピリャで圧力をかける理由

前日の2025年11月3日、ウクライナ軍のシルスキー総司令官はドブロピリャ前線での圧力強化を明言した。狙いはロシア側の兵力を分散させ、ポクロウシク方向への主力集中を難しくすることにある。防御と機動を組み合わせ、局地的な前進で相手の視線と補給を左右へ引き伸ばす意図がにじむ。

ポクロウシクは鉄道や道路が交差する物流拠点で、攻勢と防勢がせめぎ合う。ロシア側は市域への侵入と圧力継続を主張し、ウクライナ側は持ちこたえているとする見解を示す。現地は建物単位で攻防が繰り返され、地図の上では細い線の動きであっても、歩兵にとっては1街区の奪回に全力を要する時間が続いている。

都市戦が映す「空」と「地上」のせめぎ合い

戦況分析では、ポクロウシク周辺の戦いは長期の作戦の帰結とされる。ロシア軍は2024年からの進出で補給線の遮断や無人機運用の妨害を積み重ね、都市内部では小隊規模の浸透を繰り返しているという。ウクライナ側は偵察と打撃のドローン網で対抗するが、発進の余裕がそがれる局面も増え、歩兵の踏ん張りが戦線の形を決める場面が多い。

市街地は避難が進み、破壊された建物が増えた。地図で赤や黄に塗られる境界は日々にじみ、戦術の小さな成功が次の一手を誘う。空からの妨害と地上の浸透がかみ合えば前進は早まるが、遮蔽物の多い都市では相手も隙を探す。双方の主張は食い違い、独立検証は難しい。それでも、瓦礫の陰で位置を入れ替える兵士の動きが、この日の現実を語っている。

冬へ向けた補給線と持久の設計

補給を守る戦いは季節の変わり目で重さを増す。前線では道路の一部が無人機や砲撃で使いにくくなり、部隊の輪換や搬送に遅れが生じやすい。だからこそ、弾薬と無人機を安定供給する仕組みづくりが急がれる。大統領の現地訪問は、兵士の表情を見て判断を進める実務の一環であり、継戦の設計図を前線の温度に合わせて更新する作業でもある。

遠く離れた都市も無縁ではない。前線の踏ん張りが電力や交通の平穏に影を落とし、後方の生産が兵士の手元に届く速度が戦場の呼吸を決める。ポクロウシクをめぐる攻防は、一気の決着ではなく、補給と消耗の線引きが続く長い時間の中で形を変えていく。静かな司令室の写真は、その時間の重さを淡く映していた。