ゼレンスキー、国連で軍拡懸念AI無人機の規制訴え

ウクライナのゼレンスキー大統領が国連総会の壇上で声を強めた。2025年9月25日（日本時間）、ロシアの侵略をここで止めなければ、火の手はウクライナを越えて広がると警告し、無人機と人工知能が絡み合う新たな軍拡競争への危機感を示した。各国に求めたのは、ためらいのない抑止と、AI兵器の国際ルール作りである。

国連で響いた「止めるなら今」の警鐘

ニューヨークの総会場に立ったゼレンスキー氏は、戦場で進化を続けるドローンとAIが、これまでとは質の異なる軍拡競争を生み出していると訴えた。彼は「誰が生き残るかを決めているのは武器だ」と言い切り、国際機関の弱体化が紛争抑止の力を削いでいる現実を突きつけた。各国が規範の空白を放置すれば、より自律性の高い無人兵器が人間の判断を追い越し、戦争はさらに深部へと沈んでいくという見立てである。

焦点は抑止の具体像でもあった。ゼレンスキー氏は、強固な同盟と実効性のある装備こそが安全の条件だと語り、ウクライナが培った軍事技術の輸出に言及した。彼は、停戦を叫ぶだけではロシアの作戦を鈍らせられないとし、実力に裏打ちされた支援の積み上げを求めた。足元では欧州各地でロシアの無人機や戦闘機による領空侵犯が問題化しており、戦線の輪郭が曖昧にじむ中で、国際社会がどこまで線を引けるかが問われている。

演説の矢は欧州の周縁にも向かった。モルドバがロシアの影響下に沈む事態は避けねばならないと強調し、脆弱なエネルギーや資金の面での支えを要請した。ウクライナは最初の犠牲に過ぎないという言葉には、国境を越える作戦の広がりを前提とする現実認識がにじむ。そこで彼が繰り返したのは、今止める方が、後から払い続ける対価よりはるかに小さいという計算だ。

揺れる米国のサイン、そして米露の接触

演説の前後で、米国の信号が揺れた。トランプ大統領は、ウクライナが失地を取り戻し得るとの見方を示し、ロシア機がNATOの領空を侵犯した場合は撃墜すべきだと発言した。これまでの譲歩論とは温度の異なる言葉であり、クレムリンの胸中を探る駆け引きの一幕にも映る。とはいえ、制裁や追加支援の実弾が伴うかは別問題で、欧州に負担増を促してきた大統領の基本線がすぐに変わるわけではない。

同じ頃、ニューヨークでは米露の高官が向かい合った。ルビオ国務長官とラブロフ外相が会談に臨み、やり取りは約50分に及んだ。会談の詳細は限られるが、長引く戦争の「出口」をめぐる探り合いが続いていることは確かだ。長官側は殺戮停止と持続的解決に向けた行動を促したと述べ、ロシア側は即時の評価を控えた。ゼレンスキー氏はこの間合いを見計らうように、米国との会談は「良い内容だった」と述べ、現実的な支援の組み立てに含みを持たせた。

ここで重要なのは、言葉と実行の距離である。厳しい表現は抑止の一部になり得るが、侵攻側が計算に入れるのは実際に動く兵站と装備だ。米国の姿勢がどこまで実務に落ちるかは、欧州の安全保障アーキテクチャを左右する。同盟の穴を放置すれば、侵犯の既成事実化は加速し、戦線の外縁はさらに曖昧になる。ゼレンスキー氏の「今が安い」という警句は、米欧の意思決定テーブルに重く乗っている。

欧州の防空、AIルール、そしてウクライナの次の一手

欧州で相次ぐ領空トラブルは、防空の現場を疲弊させる。警戒発進は日常化し、無人機の航跡は国境線を嘲笑うように折れ曲がる。目の前の対処と並行して、ゼレンスキー氏が投げかけたAI兵器の国際ルールは中長期の歯止めである。核不拡散に匹敵する緊急性を持つとする主張は、機械に委ねられる殺傷の判断を、どこまで人間が回収できるかという根源的な問いにつながる。

ウクライナは、自国の生産体制を引き伸ばしながら、同盟国への装備輸出に舵を切る構えだ。戦地で磨かれた防衛技術を共有することで、支援の継続性を確保し、同盟の抑止を底上げする狙いが透ける。国連という器が十分に機能しない現実を前提にするなら、各国が手にするのは、相互運用可能な装備と、政治的リスクを分かち合う意思である。ロシアの作戦は国境を示す看板を気にかけない。だからこそ、欧州の周縁を切り崩させない網を、装備と制度の両輪で編み直す必要がある。

危機は静かに広がる。ドローンの群れは空港を止め、偽情報は社会の継ぎ目を裂く。ゼレンスキー氏は、ウクライナだけの戦争ではないと繰り返した。前線の一歩後ろにいるのは、電力網と交通、生活であり、それらは国境のこちら側にもつながっている。いま必要なのは、拡大を未然に抑えるための現実的な手当てと、AI時代のルールを先回りで形にする政治の速度だ。そこで足並みがそろうかどうかが、次の冬の空模様を決める。