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夕暮れの滑走路をかすめる低い風に、見えない羽音への緊張が混じる。ドイツ政府は、敵対的なドローンが空と地をまたいで脅威となる現実に合わせ、連邦軍に「最後の手段」として撃墜を認める法改正の準備を進めている。焦点は、警察の限界を補いながら憲法の枠をどう守るかにある。近隣で相次ぐ侵入事案が、この動きを後押ししていると映る。
何が起きたのか
政府は2025年1月15日、航空安全法の改正案を内閣として決定し、連邦議会に送付した。案の中核は、警察が技術的に対処できない深刻な危険が生じた場合に限り、連邦軍が警察の要請に基づき、ドローンに対して武器を用いた措置を執れるよう明文化する点にある。対象は人命や重要インフラに対する具体的な危険があるケースに絞られると説明された。
政府側は、この権限はあくまで「ウルティマ・ラティオ（最後の手段）」であり、まずは探知、妨害、着陸誘導といった非致死的手段の階梯を尽くすと強調した。地上の第三者に危害が及び得る地域では、撃墜のような手段自体が許容されないという線引きも示された。改正が成立すれば、現行実務の延長線上に厳格な発動条件が重ね書きされる構図となる。
一方で、連邦議会の審議と可決が不可欠だ。政府は少数与党であり、与野党の合意形成は避けて通れない。誰に有利なのかという政局的な勘定を超え、空の安全と市民の自由の折り合いをどこに置くのか。審議は制度設計の細部に踏み込む局面を迎えるとみられる。
増える侵入、広がる懸念
法改正の背景には、ドイツ北部や周辺国での侵入事案の増加がある。政府は過去二年の安全保障環境の変化を挙げ、軍施設上空や重要インフラ周辺で、警察の能力だけでは抑止や排除が困難な高度化したドローンが確認されている現実を認めた。スパイ行為や妨害の疑いが強いケースも視野に入れているとされる。
ドイツの警察は検知・妨害能力を拡充してきた。大規模イベントでも多数の民生機に対処し、着陸させる運用が定着しつつある。だが、航続距離や妨害耐性を高めた機体が警備網の外縁から侵入する局面では、警察から連邦軍への迅速な支援要請と、空の専門部隊による対処が欠かせないという判断がにじむ。
近隣では空港運用に影響が出た事例も報じられた。現時点で確認されている範囲では、こうした相次ぐ事案が、ドイツ国内でも「最悪の事態に備える」法的手当てを急がせたと受け止められている。偶然の連鎖なのか、意図的な圧力なのか。見えない操縦者の輪郭が、安全保障と日常の境界を揺らしている。
どこまで許されるか、憲法と運用の線引き
ドイツ基本法は連邦軍の国内運用を厳しく制限してきた。今回の改正はその原則を動かさず、あくまで警察作戦への文民当局支援としての位置づけを明確にする枠組みである。決定権限や要請手順は既存の連携基盤を活用し、空の状況認識を統合する中枢を軸に迅速化を図る構えだ。
たとえば連邦軍施設の直上や周辺については、現在も別法により危険排除の権限が与えられている。今回の改正は、軍施設外の空域で警察の能力を超える脅威が発生した際に、支援として武器使用を含む強制力を限定的に開くものと説明される。地上の安全確保が大原則であり、破片落下の危険が予見される地域では発動しないという歯止めも明記される見通しだ。
なお、2025年9月27日に特定の閣僚名で発表があったとの指摘については、現時点で一致する政府資料は確認できていない。他方で、1月15日の内閣決定は公的に示されており、「最後の手段」としての撃墜権限を制度化する狙いは明瞭である。法案が成立すれば、警察と軍の役割分担はより透明になり、現場の判断も法的に裏づけられるとみられる。
