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ウィーンの会議場を出た各国代表の表情は硬かった。国際原子力機関(IAEA)の理事会が2025年11月20日、イランに対し高濃縮ウランの在庫と、空爆を受けた核施設の現状を「遅滞なく」報告するよう求める決議を採択したためだ。採択直後、テヘランは査察再開に向けた合意の破棄を正式に通告し、対立は一段と深まっている。
IAEA理事会、核施設へのアクセスと情報開示を要求
決議は35か国で構成されるIAEA理事会で採択され、米国、英国、フランス、ドイツが共同で提出した。賛成19、反対はロシア、中国、ニジェールの3か国、棄権12という内訳で、イランに対し国内の核物質と保障措置下にある核施設について正確な情報を速やかに示し、検証に必要なあらゆる立ち入りを認めるよう求めている。
背景には、イスラエルと米国が2025年6月にイラン国内の濃縮施設を空爆し、ナタンズやイスファハン、フォルドウが被害を受けたことがある。空爆から5か月が過ぎてもイランはIAEA査察官の立ち入りを認めておらず、機関側は濃縮ウラン在庫の把握が「長期間にわたり遅れている」として、状況の解明を「緊急」に進める必要があると訴えている。
IAEAの推計では、空爆開始時点の6月13日にイランが最大濃縮度60%のウランを440.9キロ保有しており、さらに濃縮すれば約10発分の核兵器に相当する量とされる。原発燃料に必要なのは3〜5%程度の濃縮度とされることから、西側諸国は60%という水準を民生目的では説明しがたいとみなし、IAEAも大量の高濃縮ウランの生産と貯蔵は「深刻な懸念事項」だと強調している。
決議に反発するイラン、査察再開合意を破棄
イラン政府は一貫して核開発は発電や医療など平和目的だと主張し、高濃縮も自国の権利だと位置づける。今回の決議案が提出される前から、可決されればIAEAとの協力に「悪影響を及ぼす」と警告しており、採択後には9月にIAEAと結んだ査察再開に向けた暫定合意、いわゆる「カイロ合意」を正式に破棄したと通告した。
この合意についてイラン側は10月の時点で、欧州3か国が国連安全保障理事会で対イラン制裁を復活させたことを理由に「もはや有効ではない」と表明していたとされる。一方で、テヘランはサウジアラビアに仲介を依頼し、米国との核協議再開の糸口を探っているとも報じられており、強硬姿勢と外交的打開を模索する動きが並行して進んでいる。
IAEAの会議場では文書と声明が積み上がっていく一方で、イラン国内の核施設には依然として国際機関の目が届かない。空爆で傷ついた施設と、帳簿の上で膨らみ続けた数字の間にある空白が、事態の重さを静かに物語っている。理事会の決議とテヘランの反発のあいだに横たわる距離は、今も埋まらないままだ。現場の沈黙だけが、その先行きを示しているかのようだ。
参考・出典
- IAEA board passes resolution demanding answers and access from Iran
- Iran Update Special Edition: Israeli Strikes on Iran, June 13, 2025, 2:00 PM ET | Institute for the Study of War
- IAEA Iran Report Analysis: Nov 2024 Findings | Mirage News
- IAEA Passes Resolution Demanding Information on Status of Iranian Nuclear Sites, Enriched Uranium Stock
