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国際通貨基金（IMF）は4日、日本政府が先月まとめた経済対策について、財政コストの重い案を外し、規模を抑えた点を評価した。新たな歳出は予想より小さく、来年度の財政赤字への影響も限定的とみている。一方で、利払いの増加や高齢化、防衛費といった長期の課題は重く、誰がどこまで負担を担うのかという問いが改めて浮かび上がっている。
暮らしから見る「小ぶり」な財政出動の光と影
IMFの広報担当ジュリー・コザック氏は定例会見で、日本の新たな財政措置は想定より小さく、来年度の財政赤字を大きく膨らませるものではないと説明した。ロイター通信によれば、政府は18.3兆円規模の補正予算で景気対策を組むが、その多くを国債発行で賄う構えだとされる。家計や企業から見れば、当面の景気下支えと将来の税負担抑制という、相反する期待と不安が交差する構図だ。
一方で、国債市場では超長期金利が高い水準にあり、過度な財政拡張は金利上昇を通じて住宅ローンや企業の借入コストにも跳ね返りかねない。IMFが「より重い案が外れた」と歓迎した背景には、こうした金融市場の緊張感もある。財政規模を絞ることで、追加の景気刺激よりも「金利急騰を避けること」を優先したとも読める。暮らしの安心は、現金給付の厚みだけでなく、金利や物価の安定にも左右される。
IMFは以前から、日本に対しては「財政余地が限られる中では、景気対策は一時的かつ弱い立場の層に絞るべきだ」と繰り返してきたと、Japan Times紙は7月の会見内容を伝えている。今回の比較的コンパクトなパッケージは、こうした助言に沿う側面もある。ただ、支援が薄いと感じる低所得層や地方の事業者が出れば、「財政健全化」と「生活支援」のどちらを重視するのかという政治的な論争は続きそうだ。
赤字縮小と債務の山 IMFが見る日本財政の現在地
コザック氏は、日本の財政赤字はここ数年着実に縮小しており、力強いGDP成長と相まって、政府債務残高のGDP比を押し下げていると指摘した。IMFは、今回の対策を織り込んだうえでも、来年には債務残高の対GDP比が低下基調に入るとの見通しを維持している。過去の対日審査（いわゆる「4条協議」）でも、日本は先進国で最も高い公的債務水準を抱えつつも、名目成長と低金利の組み合わせで「持ちこたえてきた」と評価されてきた。
ただしIMFは、短期的な見通しが良好だからといって安心できないとも強調する。利上げが進めば国債費は増え、高齢化による社会保障費、防衛力強化のための支出も膨らむ方向にある。アジア太平洋地域の経済見通しをまとめたIMFの報告書でも、高齢化と金利上昇が各国の財政余地を圧迫し始めていると警鐘が鳴らされている。日本はその最前線に立つ国の1つだ。
新たに就任した高市早苗首相は、従来の「毎年度の基礎的財政収支（プライマリーバランス）黒字化」という目標を見直し、複数年にわたる新たな財政指針に切り替える方針を示したとロイターは報じている。危機対応の柔軟性を高める狙いがある一方で、黒字達成の時期が見えにくくなる懸念もある。IMFの評価する「赤字縮小の流れ」を維持できるかどうかは、この新しい枠組みの下で、歳出と歳入の改革をどこまで具体化できるかにかかっている。
緩和的な金融政策と財政の選択肢 問われるリスクの分担
IMFは今回、日銀の最近の金融政策運営についても「引き続き適切に緩和的だ」と支持を表明した。超低金利と巨額の国債保有は、政府が高水準の債務を抱えたままでも当面は資金繰りを確保しやすい環境をつくる。一方で、家計の預貯金利回りは長く抑え込まれており、物価上昇に追いつかないとの不満も根強い。金融緩和と財政拡大の組み合わせは、「国全体としての負担を先送りしているのではないか」という視点も避けて通れない。
インフレ率や賃金がさらに高まれば、日銀は一段の政策修正を迫られ、長期金利の上昇を通じて政府の利払い負担が急増する可能性がある。IMFも、短期的な日本の債務動向は良好だが、金利や高齢化、防衛費といった長期の圧力には備えが必要だとの見方を示す。そうなったとき、増税や歳出削減、成長戦略のどこに重心を置くのか。痛みの分配を巡る選択は、結局のところ国内政治の決断に委ねられる。
IMFや市場のまなざしの下、日本は「どこまで景気を支え、いつから借金の整理に本腰を入れるのか」という難しいかじ取りを続けている。今回、過度に膨らんだ案が退けられたことで、短期的な危うさは和らいだように見える。しかし、社会保障や防衛、成長投資の優先順位をどうつけ、どの世代がどの程度の負担を引き受けるのかという議論は、遅かれ早かれ避けられない。静かに進む債務の調整を、国民一人ひとりの選択としてどう共有していくのかが問われている。
