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高市早苗首相の国会答弁に中国が強く反発する中、日本政府は2025年11月14日、台湾をめぐる立場に変更はないと改めて示した。木原稔官房長官は、台湾海峡の平和と安定は国際社会にとって重要で、対話による平和的解決を期待するという従来方針を確認した。緊張が言葉から現実へと移らぬよう、政府は説明の線を整えにかかった。
言葉の波紋と政府の整理
同月7日、衆院予算委員会で首相は、いわゆる台湾有事が「存立危機事態」になりうるかを問われ、武力行使を伴う事態であれば該当しうるとの見解を示した。存立危機事態（日本の存続が脅かされ得ると認定され、集団的自衛権の行使が可能となる枠組み）については、具体的状況に即して政府が総合判断するとの前提も付した。
発言は直ちに波紋を広げ、中国側は厳重に抗議したと発表した。さらに在大阪の中国総領事が同月8日、SNSのX（旧ツイッター）で過激な表現を用いた投稿を行い、その後に削除したことも報じられた。言葉の強度が増すほど、意図と受け止めの齟齬が広がりやすい。政府は首相発言の趣旨を含め、日本の基本的立場を改めて説明した。
14日には官房長官が会見で、1972年の日中共同声明に基づく日本の対台湾の基本姿勢は不変だと整理した。台湾海峡の平和と安定の重要性、そして対話による平和的解決への期待は、従来からの骨格である。強い表現が飛び交う局面でも、公式の基準線を示し直すことが、緊張の連鎖を抑える第一歩になる。
法律の枠組みと外交の現実
存立危機事態は安保法制に位置づく概念で、武力の行使を含む場合でも、自動的に発動するものではない。発生した事象が日本の存続に関わるかを内閣が認定し、国会の関与も経る。抽象的な可能性の議論と、具体の認定手続きは別層であり、政府が「一般論」と「個別判断」を丁寧に分けて説明する意味は大きい。
一方で、日本は台湾との関係を非政府間の実務として扱い、経済・人の往来を支える枠組みを維持してきた。官房長官は先に、従来の基本的立場を踏まえつつ協力と交流の深化を図る考えを述べている。台湾を「極めて重要なパートナー」で「大切な友人」と表現する言葉は、緊張の季節でも日々の往来を支える実務の重みを映す。
同時に、対中関係では意思疎通を強め、課題を減らし協力を進めるという日本側の姿勢が示されている。抑止の備えと、誤解を避ける説明の努力は両輪である。法の枠組みが線を引き、外交が余白を埋める。激しい言葉が残したさざ波を、実務の手つきで静かに整えていく段だ。
緊張の兆しは消えにくいが、基準線を共有する作業が続く限り、言葉の温度は少しずつ下がっていくかもしれない。
