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名古屋駅の夕刻、快速「みえ」を待つ列の先に、新しい車両の話題が静かに広がっている。JR東海がハイブリッド方式の新形式「HC35形」を導入すると発表したのは、2025年9月10日のことだ。投入開始は2028年度、翌年度までに計38両。非電化区間の速達列車と地域の普通列車を支える足が、環境負荷の低い次世代へと更新される意味は小さくないと映る。
走る舞台が描く輪郭
まず新車の舞台となるのが、名古屋駅―伊勢市・鳥羽駅間を結ぶ快速「みえ」だ。観光と通勤が同居するこの区間に加え、高山本線の岐阜駅―下呂駅間、太多線の美濃太田駅―多治見駅間にも順次広がる計画である。編成は2両を基本とし、19本で計38両を新製する。置き換え対象は長年このエリアを走り続けてきたキハ75形で、在来線普通車両としてハイブリッド方式を投入するのは同社では初となる。
2028年度から2029年度にかけての導入タイムラインは、地域の足を止めずに更新を進める段取りに映る。高速域の運転性能を求められる快速列車と、細かな停車を重ねる普通列車という二つの顔に応えるため、軽量・高効率な駆動と応答性の高い電動機制御を組み合わせる設計思想が前面に出る。誰に有利かといえば、速達性を求める旅行者にも、通学・通勤の利用者にもバランスよく利点が及ぶ布陣だ。
外観デザインは既存の通勤型電車で親しまれてきた意匠を踏襲しつつ、速達列車のイメージを加える方向が示されている。車内は運用に応じて座席レイアウトを最適化し、短距離の着席需要と乗降のしやすさを両立させる狙いが浮かぶ。地域の観光動線を見据えつつ、日常の移動を支える装いへ。更新の矛先が生活圏の細部に向けられていることが伝わってくる。
数字が語るハイブリッドの意味
HC35形は、ディーゼルエンジンで発電した電力と蓄電池の電力を組み合わせ、電動機で走るハイブリッド方式を採る。機械的な回転部品の一部を不要とする構成は、保守の省力化や信頼性向上にもつながる。非電化区間でも再生電力の活用や最適制御が可能になり、燃料使用量と排出ガスの低減が見込まれる。従来の気動車では難しかった領域に、電車的な滑らかさを持ち込む発想がにじむ。
最高速度は時速120キロとされ、非電化の快速列車が求める速達性をしっかり担う水準だ。速度性能だけでなく、加減速のメリハリが増すことでダイヤの柔軟性が高まり、遅延回復力にも寄与する余地がある。電化を待たずに環境性能と走りの質を引き上げるという選択は、投資対効果の観点からも現実解といえる。偶然ではなく、沿線需要と設備条件を見極めた必然の一手と映る。
車両状態を常時見守る監視システムの導入や、重要溶接部を減らした台車構造の採用など、足回りと情報の両面でリスク低減を図る方針も示された。異常の早期検知は運用の安定につながり、結果として乗り継ぎや観光計画の確実性を高める。環境と安全、速達性の三つ巴をどう両立させるか。その答えを、HC35形の数字と仕立てが物語っている。
乗り心地の更新、地域に落ちる影
更新の矛先は、目に見える快適性にも及ぶ。混雑や時間帯に応じて乗降しやすさと着席機会のバランスをとる内装計画に加え、車内の見守り機能やバリアフリー設備の充実が進む方向だ。観光客が多い伊勢志摩方面や温泉地・下呂を結ぶ列車にとって、荷物の持ち込みや車いすでの移動がスムーズになる効果は小さくない。乗って安心、降りて快適という更新がじわり広がる。
一方で、長年親しまれてきたキハ75形の置き換えは、沿線の記憶を塗り替える出来事でもある。引退の具体的な時期や運用の細部は今後詰められる見通しだが、少しずつ日常の風景が変わっていくのだろう。速達列車としての誇りを新車が継ぎ、普通列車としての懐の深さを磨く。誰のための更新かと問えば、観光と生活が交差する東海の移動そのもののため、と答えるのが自然だ。
発表は2025年9月10日。導入の本番は2028年度からと、準備の射程は長い。だからこそ、設備投資と人の往来のリズムを合わせることが肝要になる。電化か、車両更新か、その都度の最適解を選び取る行為は地味に見えて都市と地方をつなぐ大仕事だ。新しい車両の陰には、地域に通う人々の時間がある。その時間をどう軽くするか――HC35形の挑戦は始まったばかりだ。