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都内の給油所で、価格表示に目を凝らすドライバーの吐く息が白い。2025年10月22日、自由民主党・日本維新の会・公明党の実務者が、ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止をめぐって協議した。補助金を段階的に増額し、年内に上乗せ分と同額の負担軽減を実現させる方針で合意したとされる。法改正の手続きに先んじて、実際の家計負担を早く軽くする狙いがにじむ。
年内「実質ゼロ」へ、動き出した価格対策
協議後、自民党の小野寺五典政務調査会長が、補助金の段階的増額で年内に暫定税率の上乗せ分と同程度の負担軽減を目指す考えを示したとされる。現時点で確認されている範囲では、法改正の成立を待たずに価格面での効果を先行させ、買い控えや供給の混乱を避ける構図である。給油所の現場では「いつ下がるのか」という声が根強いが、年内にレシート上の負担感が薄れる道筋が描かれたと映る。
法案は臨時国会での成立を目指す段取りとされる。だが、税制関連は法令改正とシステム改修が不可欠で、実施まで一定の期間を要するのが通例だ。そこで、既存の燃料価格対策を拡充して橋渡しに使い、目に見える軽減を先に届ける設計が選ばれた格好である。急な価格変動は物流や観光にも波及するだけに、段階的に補助を厚くする運びは現場感覚に沿うともいえる。
一方で、補助金はあくまで暫定措置という性格が濃い。価格の下支えは即効性がある反面、財政負担や市場の歪みといった副作用も避けにくい。年内は「実質ゼロ」に近づけつつ、来年のどこかで法改正による恒久的な制度見直しへ軟着陸させることができるか。与野党の間で技術的な調整と政治判断が重なる局面が続くとみられる。
暫定税率の長い影と、いま必要な着地点
ガソリン税の暫定税率は、長く延長されてきた「上乗せ」である。価格が急騰した局面では、増税・減税の議論が繰り返し起き、補助で埋めるのか、税の見直しで応えるのかという二者択一が政治を揺らしてきた。今回、三党が補助の増額に踏み切るのは、目の前の価格高騰に素早く対応し、制度改正の空白を埋めるためだ。ドライバーの負担感を和らげつつ、流通現場の動揺を抑える着地点を探る意図がうかがえる。
ただし、制度を所管する側から見れば、税と補助は性質が異なる。税は恒久的な財源設計と一体であり、補助は機動的に強弱をつけやすい。与党内の税制議論では、自動車関係諸税全体を見直す論点が繰り返し示されてきた経緯がある。今回の合意は、その延長線上にある暫定措置といえるが、どこで補助から制度改正へバトンを渡すかが次の焦点になる。
また、肩書の混同にも注意が要る。自民党の税制調査会長は党内の税設計を取り仕切る重要ポストであり、近時は宮沢洋一参院議員が務めてきた経緯がある。他方、小野寺氏は政務調査会長として経済対策や与党協議を統括する立場だ。党内の役割分担を踏まえれば、補助と法改正を並走させるには、政策・税制の両輪での調整が不可欠であることが見えてくる。
家計に届くまで――現場の時間と政治の時間
価格は来週にも、制度は数カ月後に。政治の時間と現場の時間は、しばしばずれる。補助の上積みが決まれば、元売りや小売の系列を通じて価格に波及するまで数週間を要する場合がある。他方、法改正は国会審議、公布、告示、システム改修という工程を踏む。年末にかけて「目に見える軽減」を先に走らせ、法改正が追いかける段取りは、時間差を埋める設計と映る。
給油所の店頭では、値札の入れ替えに追われる従業員の手つきが慌ただしい。物流ドライバーは「年内に落ち着けば助かる」と話し、地方の観光地では年末年始の人出に期待が集まる。もっとも、補助の厚みをどう調整し、いつ剝がすのかという出口設計が曖昧なままでは、逆回転のショックが生じる恐れもある。与野党六党が年内早期の廃止でおおむね足並みをそろえる背景には、その不安を最小化する意図もあるとみられる。
次に問われるのは、国民に対する説明の質である。価格補助は見えにくいが効く。税の廃止は見えやすいが時間がかかる。どちらも家計の安心につながるが、財源と制度の持続性という別の重みを持つ。政治はどの順番で、どの程度まで、何を優先するのか。今回の合意は、その問いに対する暫定的な解として立ち現れた。臨時国会の審議を通じて、より明確な答えが形を帯びるかが注目される。
