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瓦礫の間をかいくぐり、ロシアの小隊が戸口に取り付く。ウクライナ側は対戦車火器と無人機で応じ、市街の攻防は一段と激しさを増した。ドネツク州ポクロウスクは、戦略拠点としての機能をそがれつつも、政治的・情報的な象徴を帯びた戦いの舞台になっている。
市街地で続く消耗戦
ロシア国防省は2025年11月8日、ポクロウスクと近接するミルノフラード周辺で家屋ごとの前進が続き、包囲を完成させつつあると主張した。いっぽうウクライナ軍は、狭い回廊を維持しつつ抵抗していると説明し、完全包囲を否定した。現地では塹壕ではなく壁一枚を隔てた至近距離の戦いが常態化している。
ウクライナ総参謀本部の日次報告によれば、11月7日の戦闘交戦は前日比で約3分の1減ったものの、最も激しいのはポクロウスク方面で、同方向だけで50回超の突撃が退けられた。ミサイルや航空誘導爆弾の投下、数千規模の自爆型無人機の使用が重なり、歩兵の前進と火力の圧力が切れ目なく続いている。
市内では3人1組の小集団が建物から建物へと浸透し、損耗を織り込んだ反復突撃で拠点化を図る動きが観測される。ウクライナ側は対人地雷や対ドローン妨害で食い止めるが、遮蔽物の少ない通りでは攻撃が上回る局面が増えた。兵力の密度が高いほど被害も膨らみ、救護と後送の負担が戦闘の足かせになっている。
要衝の意味が変わった
ポクロウスクは、東のドネツクと西方の工業都市群を結ぶ道路・鉄路の結節点として長く機能してきた。だが夏以降の継続的な空中阻止やドローン攻撃で主要路は脅威にさらされ、補給の重心は既に別ルートへ移された。軍事上の価値は薄れつつあるが、奪取の宣言が国内向けの示威となる構図が色濃い。
象徴の重さは、投入規模にも表れている。ロシア側は複数方面軍から部隊をかき集め、歩兵中心の反復突撃を積み上げる一方、戦果は街区単位の漸進にとどまる。攻勢の勢いと損耗の増大が同じ座標に収束し、短い獲得と長い補充という非効率が続く。市街の破壊が進むほど、勝敗が政治に近づく皮肉がある。
次の焦点、コスチャンティニウカの名前
仮に掌握が進めば、矛先は北東の工業都市圏へ移るとの見方が根強い。米シンクタンクの戦争研究所（ISW）は2025年5月、ポクロウスクの包囲と並行してコスチャンティニウカ方面への大規模攻勢を同時に遂行する余力は限定的だと分析していた。進路が割れれば兵站と兵力の逓減が加速するためだ。
一体的な圧力を維持するには、奪取後の統制・補修・防御構築に人的資源を振り向けねばならない。戦線がのびれば火力の集中も鈍る。逆にウクライナ側は、周辺高地と交通の結節を押さえて遅滞線を重ねるほど、都市ごとの持久力を積み増せる。次の焦点がどこへ向くかは、どちらが補給の律動を保てるかに左右される。
無人機と滑空爆弾が刻む前線のリズム
近時の報告では、前線全体の交戦数が上下するなかでも、同方面の圧力は高止まりしている。滑空爆弾やローム型無人機が交通路と陣地をたたき、歩兵突撃の前段で防御の密度を崩す。防空と電子戦の奪い合いが、補給の時間帯や医療後送の経路まで左右し、指揮所の配置さえ変えつつある。
市街戦では、無人機の視界を遮る煙幕や内部通路の確保が小隊の生死を分ける。上空からの監視が強いほど、守る側は小刻みな反撃と素早い撤収に徹し、攻める側は損耗を許容して面で押す。数では劣っても、ドローン運用と偵察の質で局地の主導権を取り戻す余地は残ると前線の兵士は語る。
砲煙の残る交差点を救急車が抜け、人の気配の薄い街に緊張だけが残っている。
