国連、イラン制裁を再発動 スナップバックで禁制復活、米欧と溝

国連の対イラン制裁が再発動した。核合意の枠組みに基づく「スナップバック」が作動し、武器移転や弾道ミサイル関連の取引など幅広い禁制が戻る。イランは強く反発し、中国・ロシアの後押しを得て抵抗の構えを崩さない。米欧との溝は深まり、核問題の外交解決は、いま一段と遠のいたように見える。

制裁が戻った日、交差する思惑

制裁の歯車が再び噛み合ったのは2025年9月28日だ。未明に国連の制裁群が自動復活し、資産凍結や渡航禁止、兵器関連の禁輸が一斉に生き返った。テヘランでは通貨安が進み、議会では核不拡散条約からの離脱に言及する声も上がる。政府内には対決路線と対話路線が同居し、社会には不安が静かに広がる。

その直前、安保理は2025年9月19日に制裁緩和の継続を図る決議案を否決していた。機構の仕組み上、存続案が通らなければ旧来の制裁が自動復活する。法的解釈を巡っては中国とロシアが欧州側を強く批判し、欧州と米国は「核拡散を防ぐ緊急措置」と位置づけた。各国の思惑が交錯するなか、時計は容赦なく進んだ。

欧州の「切り札」とイランの計算

発端は2025年8月28日、英仏独（E3）が安保理に「重大な不履行」を通告し、スナップバックを正式に起動したことだ。この通知は、30日間の調整期間を経て制裁を復活させる装置である。E3は、国際原子力機関の査察受け入れ、濃縮ウラン備蓄の所在と量の説明、米国との協議再開という具体的な一連の措置を示し、応じれば発動の先送りも可能だと伝えてきた。

だが、イランはE3の「正当性」を否定し、違法な圧力だと反論した。過去の攻撃で損傷した核関連施設への対応や監視再開の手順を巡っても溝は埋まらない。欧州は合意の残余をつなぎ止める「最後のカード」を切ったつもりだが、イランの政治日程と国内世論、そして対米関係の再設計という重い計算が、交渉の足を鈍らせている。

揺れるIAEA査察と外交の糸口

監視の回復は外交の入口である。IAEAのグロッシ事務局長は2025年9月8日、理事会で「協力を回復できれば、より広い外交に向けて有望な地ならしになる」と語った。イラン側とは査察再開に向けた手順の合意に至ったとされるが、実装の道筋はなお薄い。重要なのは、核活動の実像を第三者が継続的に把握できるかという一点である。

国連総会の会期中、イランと欧州は土壇場の協議を重ねたが、制裁復活を止めるだけの具体的前進には届かなかった。欧州は「IAEAの現場復帰」と「備蓄の説明」を最低ラインに据え、対話の扉は開けておく構えだ。イランは「圧力には屈しない」と強調する一方で、経済の重圧は増す。中東の緊張が高まれば欧州への波及も避け難い。いま必要なのは、監視と対話を同時に太くする現実的な工程表だろう。