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国会内の会見場に静かなざわめきが広がった。立憲民主党の本庄知史政調会長が、各党で議論が進む「スパイ防止法」をめぐり、人権への深い懸念を口にしたのである。日本人が摘発対象に含まれ得ると指摘し、「重大な人権侵害を引き起こすリスクがある」との見方を示したうえで、まずは国内での他国によるスパイ活動の実態把握を優先すべきだと強調した。議論は加速しているが、何を守り、どこまで踏み込むのかが問われている。
会見場に漂った緊張と問い
8日の記者会見で本庄氏は、テロ対策や経済安全保障の名の下に広く適用される法が、取材・研究・市民活動を萎縮させる恐れをはらむと語った。とりわけ、捜査権限の設計や適用範囲が不明瞭なままでは、恣意的運用の余地が残るとの危機感がにじんだ。耳を傾ける記者たちの間に緊張が走り、メモを取る手が止まる場面もあったと映る。
本庄氏が繰り返し口にしたのは「まず実態」という言葉である。どの国が、どのような手口で、どれほどの被害を与えているのか。被害認定や損害額の推計、過去の検挙事例の総括がないままでは、刑罰と監視を先行させる議論に傾くという戒めが込められている。数値や根拠の提示こそが、国会審議の出発点だという立場が浮かぶ。
現時点で確認されている範囲では、会見は具体的条文や対案提示の場ではなかった。だが、捜査手続の可視化や救済手段の整備、公益通報の保護など、権利保障の安全装置を前提にせよというメッセージは明確だった。誰の安全を守る法なのか、誰に不利益が及ぶのか。その矢印を示すことが政治の責務だとする視座がにじむ。
与野党で進む「防止法」論と40年越しの再燃
与党側では動きが速い。自民党は2025年5月27日、治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会が「スパイ防止法」導入を含む提言をとりまとめ、当時の石破首相に提出した。外国勢力による偽情報や認知戦への対処を掲げ、同法の検討を急ぐべきだと訴えた流れである。夏から秋にかけ、議論のテーブルは着実に広がってきたとみられる。
9月19日には、高市早苗氏が自民党総裁選の公約に同法の制定着手を明記した。総裁選の争点化は、政権公約への格上げを意味し、立法作業の現実味を強めた出来事である。保守層の関心が高いテーマを前面に置く戦術は、経済安保の強化や入管・土地規制の議論とも連動し、年内の論点整理をにらんだものと映る。
一方、野党側では日本維新の会や国民民主党が必要性を主張してきた。他方で、立憲民主党は慎重姿勢を崩していない。80年代に一度、同種の法構想が世論の強い反発で頓挫した経緯があることも、会期ごとの政治判断に影を落としている。賛否の分岐は、自由と安全の線引きをどこに置くかという古くて新しい争点に重なる。
鍵を握るのは「実態の見える化」と安全装置
最初の鍵は、実態把握の透明化である。政府は、摘発件数や被害類型、狙われた技術分野、手口の変遷などを時系列で整理し、公開可能な範囲で指標化する必要がある。刑罰の新設や適用拡大には、比例原則と必要最小限の原則が不可欠で、監視強化に伴うプライバシー侵害や表現の萎縮リスクを数値で検証する工程も欠かせない。
第二の鍵は、権利保障のセーフティネットだ。令状主義の厳格な運用、捜査の記録化と事後検証、救済手続の独立性、公益通報・取材・学術交流の適法行為の明確化といった仕組みが、条文の肉付けとして求められる。違法収集証拠の排除や監督機関の権限設計も、恣意的運用を防ぐ実効的な歯止めになり得るとみられる。
第三の鍵は、国際連携との整合だ。経済安保やサイバー協力の枠組みは各国で進むが、法益や対象行為の定義は微妙に異なる。情報共有や共同対処の前提となる国内法の整備は重要だが、越境する研究・投資・報道の正当性を損なわない設計でなければならない。安全と自由をどう両立させるのか。偶然ではなく、選び取る設計が試されている。