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秋晴れの台北に旗が波打つ。建国記念の日と位置づける双十節の式典で、頼清徳総統が包括的防空システム「台湾ドーム」を打ち出す見通しだ。関係者によれば、内外製の装備を縦横につなぎ、ドローンやロケット、ミサイル、軍用機が重なる複合脅威に備える構想とされる。中国の圧力が強まるなか、平時の生活を守る「見えない天蓋」を社会にどう張るのかが問われている。
国慶の壇上で示す「台湾ドーム」の輪郭
現時点で確認されている範囲では、頼氏は式典の演説で「台湾ドーム」と呼ぶ高度な防空システムの骨格を示すとみられる。要は、別個に運用されてきた探知・迎撃・指揮通信の各要素を一体化し、脅威の種別や飛来経路に応じて最適な層で対処する総合アーキテクチャである。比喩としてはイスラエルの「アイアンドーム」に近いが、台湾の地理と装備構成に合わせた別設計になると映る。
関係者の説明では、レーダー、光学・電子戦センサー、地対空ミサイル、機関砲や迎撃砲、ジャミング、無人機迎撃手段などを包括的にシステム統合する。要撃優先度の自動算出や、限られた弾薬を温存するための層別運用が核に据えられる見通しだ。単一装備の拡充ではなく、既存資産を束ね直して応答の速度と厚みを上げる発想が浮かぶ。
実装は段階的とされ、「初期統合」を先行して走らせる計画が示唆されている。一方で、配置地点や個別装備の仕様、即応体制の詳細には言及しない公算が大きい。平時の社会機能を保つ「強靱かつ正常」な運営をめざすと語るにとどめ、配備の具体には防諜上の配慮を残す構図である。
強まる圧力、広がる抑止の必要
中国は台湾周辺での軍用機・艦艇の活動を増やし、軍事・政治的な圧力を強めている。台湾は防衛費を増やし、部隊の近代化を急いでいるが、ステルス戦闘機や空母、大量のミサイルを揃える中国との差はなお大きい。単発の調達では覆せない量と速度に、どう抑止の実効を持たせるかが焦点である。
一部報道によれば、昨年の同式典直後にも中国側は「分離主義的行為」への警告として周辺で演習を行った経緯がある。象徴の日に高ぶる緊張を、実動の連鎖に発展させない工夫が要る。指揮通信の冗長化、迎撃層の多重化、誤認回避の識別強化など、技術と運用の両輪で隙を埋める取り組みが広がっている。
頼氏はこれまで、現状変更の試みに対しては抑止を効かせつつ、現状の平和と安定を責任をもって維持する意向を繰り返してきた。今回の防空構想は、単なる装備増強ではなく、平時の通学路や病院、工場が止まらないための社会防衛の設計図として位置づけられるとみられる。抑止のロジックを生活の言葉に落とし込めるかが問われる。
平時を守る投資、社会の備えへ
防空の刷新は、弾薬や発射機の数合わせでは完成しない。停電に耐える電力の分散、通信のバックアップ、救急医療や物資輸送の動線確保など、市民生活のレイヤーも同時に固めてこそ意味を持つ。頼氏は防衛費の増額と社会の対応力強化を両輪に、平和の維持を掲げる考えを示しているとされる。
複合脅威への対処では、無人機の迎撃や欺瞞、低空域の検知網の密度が勝負を分ける。民間との協働でセンサーを面的に重ね、被害を局所に封じる設計が鍵となるだろう。サイバーや情報戦への備えも不可欠で、偽情報の拡散を抑えるリテラシー教育や、自治体の演習常態化が功を奏すと映る。
何を守り、どう生きるのか。双十節の言葉は、抑止の理屈を超えて日々の手触りに届く必要がある。台湾ドームの真価は、非常時に弾を撃つ前に、平時の都市が普段どおり動き続けることにこそ宿るはずだ。式典の壇上から、生活を起点にした安全保障の姿が浮かび上がるか注目したい。
