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与野党の声が交錯する委員会室で、答弁席の言葉が一拍置かれた。2025年11月10日の衆院予算委員会で、高市早苗首相は7日の発言を撤回しない考えを示した。中国が台湾を海上封鎖するような有事を念頭に、「存立危機事態(日本の存立が脅かされると内閣が認定する局面)」に当たり得るとの趣旨を維持した形だ。政府の説明姿勢と法運用の線引きが焦点になっている。
国会で交わされたやり取り
立憲民主党の大串博志委員が、政府は具体例の言及を避けてきたと指摘し、撤回の有無をただした。首相は「実際に発生した事態の個別具体の状況を総合して判断する」と従来の枠組みを強調しつつ、「特に撤回や取り消しをするつもりはない」と応じた。発言の根拠と政府方針の整合を問う応酬が続いた。
同時に首相は、特定のケースを前提にした断定的な物言いになったと認め、「今後はこの場で明言することは慎む」とも述べた。安全保障をめぐるメッセージの強度と、法の適用に関する慎重さ。その間合いを測るような答弁だった。
発端は7日の同委だ。首相は、中国が台湾を海上封鎖し、戦艦などを用いて武力の行使を伴う場合を例示し、「存立危機事態になり得るケースと考える」と述べていた。野党側は「具体例を示すのは従来と異なる」として説明を求め、議論が続いていた。
制度の要点
存立危機事態は、2015年の安全保障関連法に位置づけられた概念で、日本の存立が脅かされ国民の権利が根底から覆される明白な危険があると内閣が判断した局面を指す。集団的自衛権(同盟国への攻撃を一体の脅威とみる考え方)の限定的行使を可能にする柱である。
認定には内閣決定が必要で、武力行使に関わる措置は国会の承認手続きを経る。これに対し、重要影響事態(日本の平和と安全に重要な影響を与えるが、武力行使を伴わない後方支援が中心の枠組み)は性質が異なる。政府が場面ごとに線引きを判断するのが基本だ。
政府は従来、仮定の事案に対する評価を一般論にとどめる説明が多かった。今回、海上封鎖という具体の想定が議場にのぼったことで、法の射程や運用の基準をどの程度まで示すのかが改めて問われている。
波紋と今後の運び
与野党の立場の違いは、安全保障法制をめぐる10年の議論を映す。過去の審議では、ホルムズ海峡の封鎖を例に、どの段階で存立危機事態に当たるのかが焦点になった経緯がある。今回も海上封鎖という供給網を直撃する事態像が軸に置かれ、政策判断の難しさが浮かんだ。
一方で首相は、具体の想定を積極的に語ることの副作用も意識し、発言の抑制に言及した。現場の自衛隊運用や同盟調整に関わる領域では、示すべき原則と、秘匿すべき手の内が交錯する。発信の強さと実務の慎重さをどう両立させるかが、今後の説明の鍵になる。
委員会質疑は、就任後初の本格論戦の一幕でもある。経済と安全保障が重なり合う局面で、政府のメッセージは国内外の受け止めに直結する。今回の「撤回せず」は、法の枠内で対処する姿勢の表明であると同時に、言葉の扱いに一段の配慮が必要だという自覚の表れにも見える。
議場のざわめきが遠のくと、紙束の端がわずかに揺れた。変化の兆しは、まだ小さい。