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秋雨に濡れる永田町で、補正予算編成へ向けた足音が速まっている。自民党の高市早苗総裁は今月半ばにも臨時国会に臨み、長引く物価高に対処する追加歳出を固める構えだ。診療・介護報酬の引き上げ、自治体向け交付金の積み増し、エネルギー価格へのてこ入れ――総裁選で掲げた「色」をどこまで実装できるか。一方で、規模が膨らめば財政規律への懸念が再燃する。霞が関の視線は厳しく、与野党の駆け引きも読めない。
補正で示す「色」——医療・介護、地方、エネルギー
高市氏が総裁選で前面に出したのは、生活を直撃する物価高への直接対応である。診療・介護報酬の引き上げは、賃上げの遅れが目立つ現場に資金を通す狙いがある。人材の流出に歯止めをかけ、地域医療や介護の継続性を確保する効果が期待されるとみられる。地方交付金の上積みも、価格転嫁の難しい公共サービスや中小事業者を支える橋渡しとして映る。
エネルギーでは、ガソリンの暫定税率を巡る見直しに言及してきた。家計・物流の負担軽減に直結する一方、税収の空洞をどう埋めるかが避けて通れない論点である。総裁選の過程では、自治体に裁量を与える重点支援交付金の拡充も唱えており、現場の創意工夫を後押しする設計にできるかが試される。スピードと打ち手の持続性、二つの難題が交錯している。
さらに米国の追加関税で自動車を中心に逆風が強まる場合を念頭に、年度末の局面を見極めつつ自動車税制の時限的な手当てに含みを持たせている。自動車税環境性能割の停止を2年間に限って検討するというシグナルは、サプライチェーンに広がる心理不安を和らげる可能性がある半面、税体系の一貫性や環境インセンティブの後退を招かない工夫が欠かせないと映る。
規模の攻防——財政規律と景気指標のはざまで
問題は規模感である。コロナ禍を経て補正は一時期に巨額化したが、ここ2年は10兆円台半ばへと縮小してきた経緯がある。今回は「大胆な危機管理投資と成長投資」を掲げてきた高市氏の看板と、財務省が重視する債務持続性のはざまで綱引きが起きる構図だ。象徴的な見出しを求める政治と、平時モードへ舵を戻したい官庁――誰に有利なのかが読みどころになる。
足元の需給ギャップは、期によってマイナスとプラスを行き来している。昨年は需要不足が残ったが、その後はゼロ近傍での小幅な改善局面も見られた。景気の過熱も冷え込みも決め手を欠く中で、補正の役割は「下支え」にとどめるのか、それとも大胆な需要創出へ踏み込むのかが問われる。誤差の大きい指標で見通しを誤らない慎重さが求められる局面である。
企業マインドにも目配りが必要だ。直近の企業短観では、大企業製造業をはじめ業況判断の持ち直しがうかがえる一方、為替や海外需要の不確実性は根強い。特に米国の関税動向が輸出や生産計画に与える影響は読みきれず、投資行動の足かせになりうる。ここで景気の「谷」を深くしない最小限の下支えか、未来投資を前倒しする攻めの選択か。補正の設計思想が試金石になる。
与野党の距離感——編成の時計はどこまで進むか
政治日程もカギを握る。与党が衆参で少数の状況下、補正成立には野党との合意形成が前提となる。国民民主党や日本維新の会を軸に接点を探る見立てもあるが、給付付き税額控除や歳入改革の設計では温度差が残る。採決の算盤が狂えば、歳出規模だけでなく実行時期そのものが後ろ倒しになり、物価高対策の効果が「遅効性」になるリスクもくすぶる。
高市氏は4日の記者会見で財政健全化の必要性にも言及し、柔軟さをにじませた。だが、規模を絞れば「大胆さ」を自ら損なうとの受け止めが広がりかねない。逆に大規模へ振れれば、金利や国債市場への波紋、民需のクラウディングアウトへの警戒が強まる。補正編成は単なる財政テクニックではなく、政権の「政経バランス感覚」を映す鏡であるとみられる。
いま問われているのは、短期の下支えと中長期の成長投資をどう配合するかだ。防災・減災や人への投資は経済の地力を底上げするが、効果は時間を要する。物価と賃金の好循環を途切れさせず、実体経済の変化に合わせて「必要なときに必要な分だけ」投じる。2025年10月6日現在、臨時国会に向けた調整は続く。偶然か必然か、ここでの選択が次の数年を決める。
