占領地から連行されたウクライナ人の子供　北朝鮮移送の疑い浮上

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2025.12.05

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ロシアが侵攻したウクライナの占領地域から連れ去られた子どもたちが、一部は遠く北朝鮮へ送られている可能性が指摘されている。ウクライナ議会の人権担当であるドミトロ・ルビネツ氏は4日、ロシアが数千〜2万人とされる連行児童の一部を「再教育」を名目に北朝鮮へ移送していると明らかにした。行き先や安否が見えない子どもたちを前に、残された家族と国際社会は、戦争下の子どもの安全をどう確保できるのかという重い問いに直面している。

連れ去られた子どもと残された家族

ルビネツ氏によれば、ロシアは占領したウクライナの地域から数千〜2万人規模の子どもを連れ去ったとされ、その一部が北朝鮮に送られたという。人数の内訳は公表されておらず、ロシア側もこれまで公式なコメントを出していない。行方が分からない子どもを待つ家族にとっては、どこの国にいるのかさえ分からない状態が続くこと自体が、大きな不安と無力感につながる。

ウクライナ側は、ロシアやその支配地域へ連行された子どもの総数が少なくとも数万規模に達すると訴えてきた。国際刑事裁判所（ICC）は2023年、占領地からロシア本土への子どもの違法な移送をめぐり、プーチン大統領らに逮捕状を出している。今回の北朝鮮への移送疑惑は、既に問題となっていた「国外移送」が、ロシア以外の国にも広がっている可能性を示すものだ。

国際調査では、ロシア支配下の施設でウクライナの子どもに対し、ロシア語や愛国的教育、軍事訓練などを通じた「再教育」が行われているとの指摘が重ねられてきた。言語や名前を変えられ、家族や故郷から切り離されることは、子どものアイデンティティを揺るがす。一般に、戦争で家族と引き離された子どもは、帰還後も長期の心理的支援が必要になるとされており、北朝鮮のように外部からの監視が難しい国に送られているとすれば、その影響の実態を把握することすら困難だ。

ロシア・北朝鮮の接近と「再教育」の思惑

ロシアは近年、極めて抑圧的な専制国家とされる北朝鮮との関係を、軍事や外交の両面で強めてきた。砲弾やミサイルなど軍需物資のやり取りが疑われるなか、今回浮上した「子どもの再教育」をめぐる協力は、両国関係の性格をさらに暗いものにする。北朝鮮は外部の目が届きにくい国家であり、もしウクライナの子どもがそこに送られているのであれば、国際機関による監視や保護が一段と難しくなるとの懸念が出ている。

ロシア側の狙いについては、敵国の子どもを自国や友好国の支配下に置き、自国側の物語や価値観を刷り込むことで、将来の世代からウクライナ的なアイデンティティを切り離そうとしているとの見方がある。一方、北朝鮮にとっては、ロシアへの忠誠と協力度合いを示す象徴的な役割を担う可能性がある。ただ、こうした分析はいずれも第三者による推測であり、当事国による情報開示と独立した調査がなければ、実像を確かめることはできない。

国際人道法上、占領地から民間人、とりわけ子どもを自国や第三国へ移送することは原則として禁じられている。ジュネーブ諸条約は「被保護者の強制移送・追放」を明示的に禁止しており、国連総会も12月3日、ロシアに対し連行したウクライナの子ども全員を即時かつ無条件で帰還させるよう求める決議を採択したばかりだ。今回の北朝鮮への移送疑惑は、既存の国際法の枠組みが、同盟国間で行われるより秘匿性の高い移送にどこまで対応できるのかという課題も浮かび上がらせている。

子どもを取り戻すために必要な仕組み

子どもたちを故郷に戻す取り組みも始まっている。日米欧などが参加する「ウクライナの子どもの帰還のための国際連合」は、ロシアに対し連行児童の名簿や所在情報の開示を求め、ウクライナ政府も数百人分の具体的なリストを提示して返還を迫っている。また、国連子どもの権利委員会もロシアに対し、占領地域からの「強制移送」をやめ、連れ去られた子どもを家族のもとに戻すよう勧告している。

しかし、北朝鮮のように情報が閉ざされた国が関わる場合、国際赤十字や国連機関が現地に入り、個々の子どもの状況を確認すること自体が難しくなる。子どもの所在を特定し、本人や家族の意思を確認しながら安全な帰還ルートを確保するには、ロシアと北朝鮮の双方が少なくとも人道目的でのアクセスを認める必要があるが、現状その見通しは立っていない。

ウクライナの子どもをめぐる問題は、単に1つの戦争犯罪の有無を争うにとどまらず、戦争が終わった後も続く「見えない被害」をどう追跡し、誰が責任をもって癒やしていくのかという長期的な課題を突きつけている。今回の北朝鮮移送疑惑は、国境や同盟関係を越えて子どもを守るための国際的な仕組みを、どこまで具体的に作り上げられるのかが問われていることをあらためて示している。

連れ去られた子どもと残された家族

ロシア・北朝鮮の接近と「再教育」の思惑

子どもを取り戻すために必要な仕組み

参考・出典