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ロシアの侵攻が続くウクライナが、米国主導の和平案について当初の28項目から20項目に絞った修正版を米側に提出した。ドイツのメルツ首相は、この新案にウクライナが領土問題で譲歩する可能性が盛り込まれていると明かす。領土の一部を差し出してでも戦争を終わらせるのか、それとも長期戦を覚悟して守り抜くのか――ウクライナ社会に重い選択が突きつけられている。
領土と和平のはざまで揺れる市民の行方
ウクライナ政府は10日、米国が提示した和平枠組みの草案を修正し、20項目から成る新たな案をワシントンに送った。ABCニュースを引用したReutersなどによれば、この枠組みには、東部ドンバスの扱いやロシアが占拠するザポロジエ原発の管理方法など、領土とエネルギー安全保障を巡る「新しいアイデア」が含まれるという。キーウ側は、前線の現状を基準にすることと、戦後も自国の安全を確保できる仕組みを不可欠だと強調している。
最も激しい議論を呼んでいるのがドンバスだ。米国は、ウクライナ軍が現在支配するドネツク州の一部から撤退し、その地域を「自由経済地域」あるいは「非武装地帯」とする案を提示していると、ゼレンスキー大統領は説明した。ロシア軍は進駐しないとされるが、誰が治安や行政を担うのかは不透明だ。前線近くに暮らす住民にとっては、自らの故郷がどの国の法律に従い、どの軍が守るのかが定まらない状態が続くことになる。
原発の扱いも、市民生活に直結する懸念だ。ロシアが占拠を続けるザポロジエ原発について、米国は共同管理案を示していると報じられるが、事故リスクや攻撃の標的になる恐れが消えるわけではない。ゼレンスキー氏は、いかなる領土譲歩も国民投票や選挙を通じて承認されるべきだと繰り返しており、停電や避難生活に疲弊した国民の間でも、「平和」と「公正」のどちらを優先すべきかという葛藤が広がっている。
米欧とロシア、和平案を巡る思惑のずれ
今回の20項目案に至るまで、和平構想は何度も書き換えられてきた。11月に明らかになった当初の28項目案は、ウクライナ軍の規模制限やNATO加盟の制約、大幅な領土割譲を含む内容として、ウクライナや欧州各国から「ロシア寄りだ」と強い反発を受けた。ジュネーブ協議後には19項目にまで削減されたと英国議会図書館の資料は指摘しており、その後も欧州側の修正提案を踏まえつつ、ウクライナが主導する形で20項目の枠組みに再構成した形だ。
こうした中、メルツ首相は11日、ベルリンでNATOのルッテ事務総長と記者会見に臨み、「最重要の論点は、領土についてウクライナがどこまで譲歩できるかだ」と述べた。前日には、英国とフランスの首脳と共にトランプ米大統領と電話会談し、修正版の内容を説明したうえで、今週末にウクライナを交えた協議を開く案を提示したという。トランプ氏はこれまで、感謝の欠如などとゼレンスキー氏を公然と批判しつつ、感謝祭やクリスマスまでに合意へ前進すべきだとたびたび期限を口にしており、急ぎ和平実現をアピールしたい思惑がにじむ。
一方で、ロシアはドネツクとルハンスクを含むドンバス全域の支配や、ザポロジエ原発の単独管理を求め続けているとされる。AP通信によれば、ロシアは米国に対し、新たな集団安全保障案も提示しており、自らの影響圏を既成事実化しようとする動きが見て取れる。ルッテ氏は、もしプーチン政権がウクライナで目的を達すれば「次は欧州が標的になる」と警告し、欧州各国に防衛力強化を訴えた。約30カ国が参加する協議が続くなか、「戦争を早く止めたい」という世論と「力による現状変更を認めない」という原則の間で、どこまで折り合いをつけられるのかが、依然として大きな問いとして残っているとの見方もある。
参考・出典
- Zelenskyy says US-led peace talks wrestling with Russian demands for Ukrainian territory
- US offers ‘free economic zone’ in east if Ukraine cedes Donbas, Zelenskiy says
- US wants Ukraine to withdraw from Donbas and create ‘free economic zone’, says Zelenskyy
- Response to the US-Russia 28-point peace plan for Ukraine – House of Commons Library
