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外務省の会談室で握手を交わしたのは、グラス駐日米大使と茂木敏充外相だった。会談を終えたグラス氏は椅子から立ち上がると、そのまま報道陣の前に歩み出て、中国が日本産水産物の輸入を事実上止めた動きを「典型的な経済的威圧だ」と批判した。高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁に反発して圧力を強める中国に対し、米国として日本を支えるという意思を、あえて東京の中心で言葉にした場面だった。
中国の水産物停止と「経済的威圧」
中国政府は19日、日本産水産物の輸入申請の受け付けを当面停止すると日本側に通知した。輸入許可の手続きを止めることで、文書上は禁輸措置と書かずに実質的な輸入停止とするやり方である。背景には、高市首相が国会で台湾有事が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると答弁したことがあり、中国側は強く反発している。今回の停止も、その発言への対抗措置とみる見方が広がっている。
日本産水産物は、東京電力福島第一原発の処理水放出を理由に2023年から全面禁輸が続いてきたが、ことし11月にホタテなど一部の輸出がようやく再開されたばかりだった。それが再開からわずかな期間で再停止となり、産地の水産加工場や漁業者には、再び販路を失うかもしれない不安が広がる。貿易や投資をてこに相手国の政策変更を迫る手法は、経済的威圧（economic coercion）と呼ばれ、日中関係を越えて国際社会全体の懸念事項にもなっている。
日米同盟の確認と尖閣をめぐるメッセージ
こうした圧力が強まる中で行われた今回の会談で、グラス大使はまず、高市首相と日本国民に対する米国の連帯を前面に打ち出した。トランプ米大統領と自分自身、そして在日米大使館を代表して支持を伝えたいと述べ、中国の措置に屈しないとの立場を示したのである。さらに茂木外相との協議では、日米安全保障条約に基づく日米同盟への「揺るぎない支持」を再確認し、日本の施政下にある尖閣諸島を含めて、日本防衛に対する米国の関与は確固たるものだと強調した。
尖閣諸島周辺では中国当局の船舶の活動が続き、軍事面での圧力と、今回のような経済面での圧力が重なりつつある。中国側は水産物だけでなく、日本産牛肉の輸入協議を中止する動きも見せており、報復の輪はじわじわと広がっている。 一方、日本政府は表立った応酬を控えつつ、漁業者らへの支援策や代替市場の開拓を模索している。外務省の会談室で交わされた同盟確認の言葉は、遠く離れた産地で不安を抱く人々の暮らしと、静かにつながっている。
早朝の市場で行き先を失った発泡スチロール箱が積み上がる光景の裏側で、国境をまたぐ駆け引きは形を変えながら続いている。外務省前を足早に通り過ぎる通勤客の頭上では、誰の目にも見えないまま、言葉と経済、そして安全保障をめぐる重い綱引きが続いているのだろう。
