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成田の出発ロビーで、黒いキャリーが軽やかに転がった。外務省アジア大洋州局長の金井正彰が、日中間で高まった緊張を和らげるため、中国へ向かったのだ。発端は2025年11月7日の国会で、高市早苗首相が台湾有事を「存立危機事態」に該当し得ると述べたこと。金井は17日に出発し、18日に中国側と協議する予定が整った。日本政府は従来の立場から逸脱していないと改めて説明し、関係改善につなげたい考えだ。
局長級で北京へ、説明と沈静化を急ぐ
日本側は、今回の首相答弁が既存の法解釈を踏み越えるものではないと伝える準備を整えた。金井は外務省のアジア大洋州局を率いる要職で、対中実務の窓口に当たる。局長級の派遣は、政治対立の温度を一段下げ、当面の誤解や過剰反応をほどく狙いがある。空路での移動を挟みつつも、日程は18日の協議に照準を合わせたタイトなものだ。
相手方のテーブルには、中国外交部のアジア担当責任者が並ぶ見通しだ。日本側は、法に基づく一般論を述べたに過ぎないという点を丁寧に説明し、対外発信のトーンダウンを促す。通例、こうした場は共同声明に至らないが、相互認識のすり合わせや今後の連絡経路を整えるだけでも、現場の温度は下がる。結果は派手でなくとも、往復の言葉が危機の縁を遠ざける。
一方で、中国側の反発は速かった。11月14日には日本の駐中国大使が呼び出され、発言の撤回を求める厳正な申し入れが伝えられている。金井の訪中は、その硬化に直接向き合う選択でもある。応酬の段差が上がる前に、実務の入口でひと呼吸を作る。火種が広がるか、囲い込めるかの分岐は、こうした静かな場面で決まることが多い。
「存立危機事態」とは
存立危機事態は、2015年に整備された安全保障関連法で位置づけられた概念だ。密接な関係にある他国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされ国民の生命などに明白な危険がある場合に、集団的自衛権の行使が可能になる。個別の事案ごとに政府が認定し、国会の関与を前提に運用されるのが仕組みである。
今回、首相は具体的事案の断定ではなく「状況次第で該当し得る」との一般的な認識を示した。もっとも、中国は台湾に関する言及そのものを政治的信号と捉えやすい。日本側は従来見解の範囲内という線引きを改めて示し、個別のケースに踏み込んで明言しない姿勢を明確にすることで、余計な拡張解釈を避けたい思惑がある。
火種を小さくする通路としての実務協議
金井と中国側の実務責任者は、今年6月にも日本国内で意見交換を重ねている。首脳間の発言が注目を集める一方、現場では関係当局同士が接点を保ち、日常的に温度を調整してきた。今回も同じ通路を使う。相手の言い分をその場で修正することは難しいが、次の反応を穏やかにする余地は残る。関係の綻びを縫い直す作業は、往々にしてこうした局長級の対話に委ねられる。
国会の言葉が国際政治に響く。だからこそ、発した言葉の輪郭を補足し、誤読の芽を摘み取る作業が必要になる。今回の訪中は、政策変更ではなく説明の積み重ねで温度を下げる典型例と言える。表に見えるのは短い移動と短い協議だが、背後では連絡線を太くする手当てが続く。緊張が高まりやすい局面で、見えにくい安全弁が働いている。
出発の足音は小さい。だが、小さな足音が場を落ち着かせることはある。
