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北朝鮮が米国の新たな制裁に反発し、「相応の措置」を取ると表明した。2025年11月6日、朝鮮中央通信が米国担当外務次官の談話として伝えた。米財務省は同4日、サイバー関連の資金洗浄に関与したとして個人8人と2団体を制裁指定し、兵器計画への資金流れを断つ狙いを示した。応酬は、対話の余地を残しつつも、主導権を巡る圧力の強まりを映している。
制裁応酬が映す主導権争い
米財務省は2025年11月4日、北朝鮮のサイバー犯罪やIT労働者を通じた資金洗浄に関わった個人8人と2団体を制裁対象に加えた。指定により米国内資産は凍結され、米国人や米国居住者は取引が禁じられる。狙いは不正なデジタル資産の換金や仲介の網を断ち、兵器開発への資金供給を細らせることにある。実行役だけでなく、仲介役や表名義の事業体まで広げた点に、経路の可視化と封じ込めを重ねる方針がにじむ。
これに対し、北朝鮮は11月6日、公的メディアを通じて強い不満を示した。米国担当外務次官は「失敗した過去の古いシナリオを踏襲しながら、新しい結果を期待するほど愚かなことはない」と述べ、制裁で現状は変わらないと指摘したうえで、「敵視の姿勢が続く限り、われわれも忍耐強く、相応の対応を取る」と主張した。表現は強硬だが、時間軸を意識した「忍耐」を織り込む言い回しに、次の局面を見据える計算も感じられる。
米国側は近年、IT労働者の偽装雇用や暗号資産のミキシングなど、資金回収の裾野に照準を合わせて指定を重ねてきた。制裁は一度で完結しない。指定の積み重ねが金融仲介のコストを引き上げ、送金や現金化の遅延を通じて軍需セクターに間接的な圧力をかける構図である。北朝鮮が「相応の措置」を公言する背景には、こうしたじわりと効く摩擦への反発と、抑止線の引き直しを狙う思惑がある。
対話の兆しと条件
一方で、朝鮮半島情勢には別の動きも重なる。韓国の情報機関は今週、米朝首脳会談が来年3月以降に行われる可能性が高いとの見方を示した。年明け以降の合同演習日程や相互のメッセージ管理を踏まえれば、エスカレーションを避けつつ接触の糸口を探る余地はある。制裁の輪を締め上げながら、信号の出し入れで交渉空間を測るという、近年のパターンが想起される。
トランプ大統領は先月の訪韓時にも、金正恩総書記との会談に前向きな姿勢をにじませ、将来の会談の可能性を残した。北朝鮮側は公式応答を控えつつも、外務当局の談話で自国の「条件」を強調する構えだ。両者は同じテーブルを意識しながら、前提条件と見返りの幅を、公開メッセージと非公開チャンネルの両面で探っているように見える。
ただ、現実の圧力装置は消えない。北朝鮮はミサイルや宇宙関連の示威に加え、サイバー領域での蓄積を誇示してきた。米国は金融制裁と司法措置の組み合わせで応じ、民間の取引所や決済事業者には厳格な順守が求められる。対話の兆しが見える時期ほど、相互の「事実認定」を競う動きが強まり、合図が届くまでの距離はむしろ長くなる。
資金の流れを巡る静かな攻防
今回の指定で焦点となったのは、表向きは合法事業を装いながら、国外の口座やデジタル資産を介して資金を回収する手法である。履歴を分断するための名義貸しや請負の多重化、クラウド経由のリモート就労といった実務は、監督当局の照会が入るだけで滞る。制裁が刺さるのは、資金そのものよりも、信頼や信用のコストが上がる点にある。回転率が落ちれば、兵站に等しい資金調達の歯車も目に見えない負荷を抱える。
北朝鮮が示した「相応の措置」は、発射やサイバーによる示威から、交渉前の身振りに至るまで幅が広い。来春以降の節目が意識される中、小さな挑発と小さな譲歩の組み合わせが繰り返される可能性がある。金融の場では、指定の上積みと解除示唆が交互に置かれ、相手の出方を測る静かな攻防が続くだろう。港の照明が遠ざかるように、動きは断続的だが、航路は確かに調整されつつある。
