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秋の雨が上がった官邸前に、報道陣のレンズが一斉に向いた。高市早苗新首相は、厳しさを増す安全保障環境を直視し、防衛力の強化に全力で臨む構えを示した。自民党と日本維新の会が交わした連立合意には、安保3文書の前倒し改定や防衛費の一段の引き上げが刻まれる。財源や装備移転のルール、人材と情報の体制まで、国のかたちを左右する選択が迫られていると映る。
防衛強化へ動き出す新内閣
就任直後の高市氏は、国家の抑止力を「空白なく積み上げる」との考えを繰り返してきたとされる。現時点で確認されている範囲では、与党は2022年末に策定した国家安全保障戦略など安保3文書の前倒し改定に踏み出す方針を掲げた。背景には、中国やロシア、北朝鮮が軍事連携を誇示し、日本周辺で示威行動が常態化している現実がある。
連立合意は、防衛費を国内総生産（GDP）比2％水準に引き上げる目標をにらむ。高市氏は「必要な装備・人員・運用経費を積算したうえで対応する」との立場を示唆してきたとみられる。量より質、単年より複数年、調達より持続性という軸で、どこに厚く配分するかが早くも問われる展開だ。
人々の関心は、すでに「何を買うか」より「何を守るか」に移っている。弾薬・整備・サイバーなど目に見えにくい基盤の強靱化は、日々の安心に直結する。就任の節目で示された強い言葉が、現場の運用や産業の現実にどう落ちていくのか。国会の説得と説明の筋道が、官邸の初動を左右すると映る。
43兆円計画と財源の行方
政府は2023〜2027年度の5年間で約43兆円を投じ、防衛力の抜本的強化に取り組む計画をすでに走らせている。長射程スタンド・オフ能力の整備、島嶼防衛の強化、継戦能力の底上げなど、計画は広範に及ぶ。装備の配備が始まるほど、弾薬・保守・要員の確保といった「ランニング」の重さが増す構図だ。
財源の内訳では、法人税やたばこ税の活用に加え、所得税の扱いが焦点となる。所得税増税の開始時期は決まっていないとされ、家計との調整は難題である。高市氏は増額をにらむ場合でも「しっかり積み上げたうえで」との姿勢を崩していないとみられ、歳出改革と税外収入の活用を含め、複線的な議論が避けられない。
連立相手の維新を含め、安定財源の設計に与党内の理解をどう得るかも試金石だ。防衛産業基盤の維持・拡大に向け、発注の平準化や長期契約の拡充、赤字リスクへの手当てなど、企業側の行動を引き出す制度設計が要る。実弾のような政策手段をどこまで詰め切れるかが、43兆円の実効性を左右すると映る。
「スパイ防止」や装備移転、踏み込む論点
連立合意には、スパイ防止関連法制の速やかな成立も掲げられた。自民党は1985年に法案を提出したが、強い反対論で廃案となった経緯がある。現在も立憲民主党や公明党には慎重論が根強く、定義の線引きや報道・学術への影響をどう最小化するか、丁寧な設計が不可欠だ。議論は紛糾が予想される。
装備移転では、輸出を認める「5類型」の枠を撤廃し、移転可能な範囲を広げる案が浮上している。現時点で確認されている範囲では、長距離・長期間の潜航を可能にする「次世代の動力を活用した潜水艦」保有の検討も盛り込まれ、原子力の活用を排除しない記述があるとの指摘が出ている。安全規制や社会的合意の壁は高い。
加えて、国営の装備品工場にあたる「国営工廠」の設置も論点に上がる。民間の生産ラインを補完し、継戦に必要な弾薬・部材の供給を担保する狙いだ。だが、調達の柔軟性とコスト、平時の稼働率という相反する要素の最適化は容易でない。政策の実装段階で、透明性とPDCAの仕組みが問われる局面だといえる。
情報機能の再設計と同盟のいま
高市氏はインテリジェンス機能の強化を持論としてきた。内閣情報調査室を「国家情報局」へ格上げし、対外情報の専管組織「対外情報庁」を創設する構想は、分散する情報機能を束ね、意思決定の速度と質を高める狙いがある。権限配分、情報保全、人材育成という三つの柱を同時に回せるかが鍵となる。
一方、地域の緊張は高止まりが続く。中国・ロシア・北朝鮮の連動が可視化されるなか、サイバーや宇宙を含むグレーゾーンの圧力は拡張している。米国の内向き志向が強まっているとの見方も一部報道では根強く、同盟・同志国との役割分担を再設計する現実がある。共同訓練や装備の相互運用性の深化は待ったなしだ。
高市内閣の顔ぶれでは、小泉進次郎防衛相の手腕にも注目が集まる。防衛産業や自治体との対話を重ね、配備と生活の両立に道筋をつけられるか。政治は宣言から実装へ移った。国会の一語一句、閣議の一決一決が、抑止と安心の輪郭を少しずつ固めていくとみられる。
