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潮風の強い滑走路に閃光が走った。2025年10月30日、韓国・釜山の空軍基地で、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が向かい合い、短い握手ののち会談に入った。両首脳は関税やレアアース、合成麻薬対策まで踏み込み、緊張緩和へ舵を切る合意の輪郭が浮かんだとされる。市場も政権も、行き過ぎた対立の揺り戻しをにらむ段階に入ったと映る。
握手の先に動いたのは関税とレアアース
会談は約2時間に及んだと伝えられ、両氏の直接会談はトランプ氏の復任後で初めてとなった。会談後、トランプ氏は米中関係の改善に自信を示し、今回のやり取りを「極めて生産的」と評した。緊張の綱引きが続いた数カ月の流れに、ひとまずの転機が訪れた構図である。米中の言葉の距離感が一歩だけ縮まった。
現時点で確認されている範囲では、米国側は中国製品への一部追加関税の即時引き下げに言及し、全体として税率水準をおおむね引き下げる案を示したと報じられている。来月にも発動が取り沙汰された大幅引き上げは見送る方向が示され、貿易現場には安堵が広がっている。関税をめぐる硬直局面に、細いながらも逃げ道ができた。
同時に注目されたのがレアアースである。中国は輸出管理を1年間維持緩和する考えを示し、当面の供給不安を和らげる枠組みで米側と一致したとされる。重要素材を巡る不確実性が落ち着けば、自動車や航空、防衛など幅広い産業で計画の見通しが立ちやすくなると映る。延長の可能性もにじみ、実務の呼吸が整い始めた。
フェンタニルと大豆、未解決の課題
合意の背景には国内事情もある。米国では致死性の高い合成麻薬フェンタニルの流入が深刻で、前駆体化学物質の取り締まり強化は政権の至上課題だ。習氏が具体措置に応じるとした点は象徴的で、トランプ氏は流入抑止に本腰を入れるとの受け止めを示した。麻薬危機の抑制は、経済の緊張緩和と地続きの安全保障課題でもある。
農業でも糸口が見えた。中国が米国産大豆の購入を再開する方針で一致したとされ、中西部の生産者には追い風が吹く。もっとも、中国側の正式な文書には具体の数量や時期が明記されておらず、実需の立ち上がりは今後のフォローアップ次第という評価が広がっている。数値で裏づけられる局面は、これからだとみられる。
一方で、先端半導体の輸出規制や動画アプリの扱いなど、火種は残る。最新GPUを巡るアクセス緩和は議題にならなかったとの報もあり、技術覇権の駆け引きは続くとみられる。安全保障と産業政策が絡む領域は、今回の休戦線からなお外側にある。合意の地肌には、対立の構造が薄く透けている。
市場の反応と次の節目
金融市場は冷静だった。アジア株は小動きにとどまり、先物も方向感を欠いた。劇的な合意というより、対立の激化をひとまず避けた「小休止」と受け止められたためだろう。レアアースの供給見通しが改善すれば、製造業の在庫積み増しは徐々に進むが、価格の急反転は限定的と読む向きが多い。過度な期待は抑えられている。
物流を巡る応酬にも軌道修正の気配がある。米政府は春に海運・港湾関連で新たな措置を告示しつつ、導入初期の実質適用を抑制する設計を示していた。今回の会談後、相互の追加負担を当面見合わせる方向が報じられ、現場の混乱を避ける狙いがにじむ。制度の微調整で、摩擦の熱を下げる工夫が見て取れる。
次の節目は首脳往来だ。トランプ氏は2026年4月に訪中し、その後、習氏の訪米で合意の肉付けを進める青写真を示したとされる。ウクライナ情勢への関与も議題に上ったが、資源調達や制裁の扱いなど難所は多い。綱渡りの対話を重ね、約束事をどこまで実装できるか。世界の供給網は、その歩調を注視している。
