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ワシントンの国務省で取材陣が見守る中、トミー・ピゴット副報道官の指がキーボードを打つ音が静かな部屋に響いた。2025年11月20日、彼はX（旧ツイッター）に、台湾海峡と東シナ海、南シナ海で武力や威圧による一方的な現状変更を認めないとする短い文章を投稿した。高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁に中国が反発し、日本への圧力を強める中での発信だった。
米国務省、副報道官がXで示した強い懸念
投稿でピゴット氏は、台湾海峡や東シナ海、南シナ海で武力や威圧を用いたいかなる一方的な現状変更にも断固反対すると表明した。米政府は従来から台湾海峡の平和と安定を重視し、対話を通じた問題解決を訴えてきたが、副報道官が3つの海域を一括して挙げたことは、緊張が連鎖しうる一体の課題として捉えていることをうかがわせる。軍事演習や威圧的な行動が続く現状に対し、政治的メッセージで歯止めをかけたい意図もにじむ。
さらに同じ投稿で、日米同盟と日本の防衛、そして日本が施政権を持つ尖閣諸島を含む防衛への責務は揺るがないと強調した。これは、日本が攻撃を受けた場合に米国が行動することを定めた日米安全保障条約5条が尖閣にも適用されるとの立場を、改めて示したものだ。歴代政権の要人も、尖閣は日本の施政下にあるとして5条の適用対象だと繰り返し確認しており、今回の発信はその延長線上に位置づけられる。海上での小さな衝突が同盟全体の問題になり得ることを、静かに示す役割も担っている。
高市首相の答弁と中国の反発
発端となったのは、2025年11月7日の国会での高市早苗首相の発言である。首相は、台湾で武力紛争が起きた場合、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」に該当し得るとの見解を示し、現行の安全保障関連法制の下で自衛隊の動員が理論上は可能だと説明した。「存立危機事態」とは、日本と密接な関係にある国への武力攻撃が日本の存立を脅かすと政府が判断した際に、限定的な集団的自衛権の行使を認める枠組みであり、2015年の安保法制で導入された概念である。
この答弁に対し、中国側は激しく反発した。中国駐大阪総領事がX上で高市氏を名指しする挑発的な文言を投稿したほか、中国外務省は日本大使を呼び出して抗議し、軍事介入を図れば「迎頭痛撃する」と警告したと伝えられている。さらに中国政府は、自国民に対し日本への渡航を控えるよう呼びかけるなど、実務面での圧力も強めている。日本国内でも発言の是非や表現の妥当性を巡る議論が続く中で、外交摩擦は経済や人的往来にも影を落としつつあり、その緊張感の中で米国のメッセージが発せられた形だ。
日米同盟が映す抑止とエスカレーション回避
こうした中で示された米国務省のメッセージは、日米同盟の抑止力と同時に、事態のエスカレーションを避けたいという意図も映し出す。米国は、台湾海峡の平和と安定が自由で開かれたインド太平洋の前提だと繰り返し表明し、一方的な現状変更には反対する姿勢を示してきた。台湾周辺で中国軍の大規模演習が行われた際にも、武力や威圧による変化を認めないとする声明を出しており、今回の投稿もそうした一連のメッセージの延長線上にある。高市首相の発言後に出された別の声明でも、米側は対話と平和的解決を重ねて呼びかけている。
尖閣を含む日本防衛へのコミットメントをあえて書き込んだ一方で、ピゴット氏の投稿は中国の名指しを避け、武力や威圧そのものへの反対を淡々と示す内容にとどまった。日本側にとっては、台湾や尖閣を巡る有事を想定しつつも、現実には衝突を避けたいという米国の本音を読み取る材料となる。高市首相の発言、中国の激しい反応、そして米国の慎重な言葉選びが交錯するなか、短い一文がどこまで関係国の行動を抑え得るのか、同盟国の画面に浮かぶ光だけが静かに問い続けている。
