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上海の調達担当者のチャットに「米メモリー大手が静かに退く」との文字が流れた。マイクロン・テクノロジーが中国のデータセンター向けサーバー用半導体から撤退する方針だと報じられ、現地の売り場の空気がわずかに冷えた。重要インフラでの使用禁⽌が続く中、回復の芽は乏しいと判断した格好だ。AIブームの波頭が高まるなか、サプライチェーンの地殻変動がまた一つ可視化したと映る。
中国データセンターからの撤退、その背後にある決定
2025年10月18日、ロイターは事情に詳しい複数の関係者の話として、マイクロンが中国のデータセンター向けサーバー用半導体事業から退出すると伝えた。国内で大規模なデータセンター事業を持たない中国顧客には販売を絞り、国外で重要な運用を持つ一部顧客には供給を続けるという。自動車や携帯電話向けの販売は継続する見通しだとされる。
転機は2023年5月21日、中国当局がマイクロン製品をめぐる審査の結論を公表し、国内の重要情報インフラ運営者に購入停止を通知したことにあった。同社は翌23日、米当局への提出文書でこの決定を受領したと明記し、影響を精査中だと示した。以後、国内データセンター向けの商談は細り、回復の糸口は見えにくくなっていたとみられる。
一方でマイクロンは、2025年10月18日付の自社声明で、中国市場は依然重要であり、法令順守のもとで顧客支援を続ける姿勢を強調した。陝西省西安の組立・テスト拠点や、上海・北京・深圳の顧客ラボの機能はグローバル網の一部として維持されると述べ、販売・事業インフラは各地域の事業規模に整合すると説明した。撤退というより「縮減と選択」の色合いが濃い。
広がる余波、残された選択肢
現時点で、中国当局や業界団体がエヌビディアやインテルに安全保障上の懸念を示してきたとの指摘はあるものの、具体的な規制措置は確認されていない。メモリー需要の主戦場であるデータセンターでは、中国が世界有数の市場規模を持つとされ、マイクロンはブームの追い風を取り込みにくい局面が続いてきた。各社の思惑が交錯し、売り場には慎重さが滲む。
それでも扉はすべて閉じていない。関係者情報によれば、レノボなど中国企業でも海外に重要なデータセンター運用を持つ顧客には供給を継続する方針だという。自動車やスマートフォン向けのメモリーについても販売は続く見通しで、同社の売上に占める中国の比重（前会計年度で約12％と報じられる）を急激に手放す選択ではないことがうかがえる。
「撤退」の見出しの陰で、実像はより繊細だ。ロイターは退出方針を伝えたが、同社は公式声明で中国事業の重要性を強調し、拠点と顧客支援の継続を明確にした。現時点で確認されている範囲では、国内データセンター向けサーバー用の供給を畳みつつ、他分野や域外需要に軸足を移す構図である。地政学と市場のせめぎ合いの中、企業の最適解は細いバランスの上に立つ。
