和平交渉で米欧に溝　独仏が米提案に懐疑、ウクライナの安全保障が焦点に

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2025.12.05

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ロシアとの和平交渉を急ぐ米国の動きに対し、ウクライナと欧州はどこまで歩調を合わせるのか。独誌「シュピーゲル」が2025年12月4日に報じたところによると、1日に行われたウクライナのゼレンスキー大統領と欧州首脳らの電話会議で、フランスのマクロン大統領とドイツのメルツ首相が、米国主導の案に強い懐疑を示したという。ウクライナに対する「安全の保証」があいまいなまま、領土を巡る譲歩を迫られるのではないかという不安が、最前線の兵士や市民にも重くのしかかっている。

和平を急ぐ米国、その影で高まるウクライナの不安

今回の電話会議で焦点となったのは、戦闘を止める条件よりも、その後の安全保障を誰がどこまで担うのかという点だ。シュピーゲルの入手した記録によれば、マクロン氏は、明確な安全の保証がないままでは、米国がウクライナの領土問題で譲歩を受け入れ、結果として同国を「裏切る」事態になりかねないと警告したとされる。表向きは停戦でも、将来のロシアによる再侵攻を抑える仕組みがなければ、前線で戦う兵士にとっては一時的な休戦にすぎない、との懸念がにじむ。

一方、ドイツのメルツ首相は、米側は交渉で「駆け引き」をしていると評し、向こう数日間は「極めて慎重に」対応するようゼレンスキー氏に助言したという。ロイターなど各紙の報道では、同じ電話には欧州委員会のフォンデアライエン委員長や、NATOのルッテ事務総長、フィンランドのスタブ大統領らも参加し、いずれもウクライナの安全を長期にわたって支える必要性を強調したと伝えられている。戦場での消耗が続くウクライナ側から見れば、不透明な和平案は、戦い続けるか、不利な条件で終戦を受け入れるかという厳しい二者択一を突き付ける。

欧州理事会はこれまで一貫して、ウクライナの主権と領土一体性の尊重を和平の前提条件と位置付けてきた。2025年10月の結論文書でも、国際的に承認された国境線の維持と、包括的で「公正かつ永続的な平和」を求める立場を再確認している。こうした公式文書と比べると、今回の電話会議で噴き出した不安は、実務レベルでの和平案がその原則をどこまで守れるのか、当事者たちが見極めきれていないことの裏返しともいえる。

マクロンとメルツの警告が映す、米欧の温度差

米国が進める和平案は、トランプ政権の特使とされるスティーブ・ウィトコフ氏やジャレッド・クシュナー氏らがロシア側と協議してまとめた28項目の草案が土台になっていると、英ガーディアンなどが報じている。欧州側が関与しない形で作られたとされるこの案は、ウクライナに対し領土の一部放棄と引き換えに停戦を受け入れさせる一方、将来の侵攻抑止に必要な安全保障の枠組みが十分明記されていないとの見方が強い。欧州首脳らが「米国が先に妥協点を決めてしまうのではないか」と神経をとがらせる背景には、こうした交渉過程からの疎外感がある。

もっとも、フランス大統領府は報道を受け、「マクロン氏はそのような表現は用いていない」と、シュピーゲルが伝えた文言の一部に異議を唱えている。ただし、大統領府は会話の詳細には踏み込まず、公の場で示してきた立場と私人の場での姿勢に違いはないと説明するにとどまった。報道各社の取材では、電話会議に参加した複数の当事者が、会話の骨格はおおむね正確だと認めつつ、機密性を理由に具体的な引用は避けている。細部の表現をめぐる食い違い自体が、米欧の間で信頼を損ないかねない微妙な均衡を物語る。

ドイツ政府内でも、ウクライナに対する軍事・財政支援を続けながら、米国が主導する和平の枠組みにどこまで依存するかという計算が続いている。欧州防衛強化をうたう首脳会議の結論では、「より主権的で、自らの防衛に責任を持つ欧州」の必要性が繰り返し強調されてきた。だが現実には、ロシア抑止の中核は依然として米国の軍事力が担っており、欧州はウクライナ支援でもワシントンの姿勢を無視できない。マクロン氏とメルツ氏の発言は、こうした構造的な依存関係に対するいらだちの表出とも受け取れる。

「安全の保証」をめぐる駆け引きと、残された選択肢

欧州連合（EU）とウクライナは2024年、10年にわたる軍事・財政支援などを定めた共同安全コミットメントに署名している。さらに欧州理事会は、ウクライナの防衛力強化こそが将来の安全保障の中核になると位置付け、ロシア資産の活用を含む追加支援の検討を続けている。一方で、米国が提案する安全保障の約束は、具体的な軍事介入を否定しつつ、複数国による協調的な軍事支援をうたうなど、あいまいさを残したままだ。ウクライナにとっては、戦闘の停止と引き換えに、どの程度までこの「不確かな安全」に身を委ねるかという難しい判断が迫られている。

今回の電話会議で示された欧州側の警戒感は、単に米国への不信だけを意味しない。長期戦で疲弊するウクライナ社会を支えながら、自らの安全保障とロシア抑止をどう両立させるのかという、欧州自身の課題でもある。日本を含む他地域にとっても、領土一体性を条件に和平を模索するか、それとも現状凍結を受け入れるかという選択は、将来の国際秩序の前例となりうる。和平交渉が加速するほど、その代償とリスクを誰がどの程度引き受けるのかという問いが、いっそう鋭く当事者たちに突き付けられている。