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量子科学技術研究開発機構(QST)などの共同研究グループは、レーザー光パルスだけで磁気メモリの記録を書き換えられる実用的材料を世界で初めて開発した。CoFeB系の人工フェリ磁性体を用いた成果で、次世代メモリの高速化と省エネルギー化につながる可能性がある。
QSTは2026年6月8日更新のプレスリリースで成果を公表し、兵庫県立大学は9日付で共同研究として発表した。論文は米国太平洋時間の8日、米物理学誌「Applied Physics Letters」に注目論文「Editor’s Pick」として掲載された。
電流ではなく光で電子スピンを反転
研究はQST、兵庫県立大学、JASRIを中心に、東京科学大学とNTTが加わって進められた。書き換えの対象は、磁気メモリで情報を担う電子スピンの向きである。電子スピンは、極めて小さな磁石の向きのようなもので、この向きの違いを「0」と「1」に対応させて情報を記録する。
研究グループは、磁気メモリ材料として広く使われるコバルト・鉄・ホウ素(CoFeB)を、ガドリニウム(Gd)やコバルト(Co)と積層した人工フェリ磁性体を設計した。3GeV高輝度放射光施設NanoTerasuを用いて多層構造を原子レベルで最適化し、レーザー光パルスの照射だけでスピン反転を繰り返し起こせることを示した。
従来の磁気メモリでは、記録の書き換えに電流を使う方式が中心だった。今回の中核は、電流ではなくレーザー光パルスだけでこの向きを切り替えられる材料を示した点にある。光で直接書き換えられれば、電流を流す際に生じる発熱やエネルギー損失を抑えながら、高速な記録操作を実現できる可能性がある。
光のみの書き換えへ進んだ材料開発
QSTは2023年、光で情報記録が可能なコバルト/白金構造について、電流による効率的な磁化反転を実現した成果を公表している。今回の研究は、光と電気を融合した情報記録技術を見据えた材料開発の流れに位置付けられるが、対象材料はCoFeBをGdやCoと積層した人工フェリ磁性体で、2023年のコバルト/白金構造とは異なる。電気的な書き込みを組み合わせる段階から、レーザー光パルスのみで記録を書き換える段階へ進んだ点が今回の焦点となる。
ただし、今回の発表は材料開発と光書き換えの実証に関する成果であり、商用メモリとしての製品化や量産化を達成したものではない。今後は、実際の素子としての動作確認、必要なレーザー条件、耐久性、記録保持特性、既存の半導体製造プロセスとの適合性が焦点となる。
